「とはいえ今日は誕生日。お前と母さんががんばった特別な日ってことには変わりないだろ?ちゃんと心から笑って過ごさないともったいねーよ。偉大なる母は子どもの笑顔が一番なんだぜ」
「はい」
「いなくなってからそれに気づいた俺はひどく後悔したから。篠原にはこんな気持ち味わってほしくない。ただそれだけだ」
「……、」
感謝を伝えるのは失ってからじゃ遅いんだよって言いたかったのかもしれない。
些細なことで喧嘩できる今のうちに伝えなさいと。
それに気付かせてくれたまっつんに感謝の気持ちが込み上げてきた。
この特別講義、素敵な誕生日プレゼントじゃないか。
「だから誕生日おめでとう、のあとに返すのは必ず『偉大なる母よ、誕生日をくれてありがとう』でないといけない。
っていう法律を作りたいなーって割と真面目に考えてたから社会科教師になったの俺」
「そうですね……」
……ん?
なんか最後の一文はよくわからなかったけどツッコミどころ多くない?
法律を作るのって社会科教師じゃないよね、政治家とか国会議員になるのが正解でしょ。
というかそもそも発言に強引な制約をつける法律って違憲じゃないかな、表現の自由だか何だかに引っかかると思うよ。
眉をひそめてその澄んだ瞳を見つめていたら、ふっと吹き出して目を逸らすまっつん。
あ、冗談か。
真剣な話のあとにしれっと奇妙なジョークかますの全くおもしろくないんだけど。
「さっきまでの感動かえしてください」
「ハハッ、特別講義はこれで以上だ」
「下手くそなオチやめてください、後味悪いんで」
ハッハッハッ、と軽やかに笑いながらぐーっと両腕を前に伸ばしたまっつんは足取りも軽やかに室内へ続く扉をくぐる。
わたしは小さくため息ひとつ落としつつ、その後ろ姿を追って廊下を歩く。

