母さんも、がんばった日?
首を傾げて隣を見ると、まっつんもわたしの方を向いて少しだけ口角を上げた。
「十月十日の末に突然訪れる陣痛、その果てしない痛みに耐え、だんだん激痛の間隔が短くなって、分娩台の上でこぶしを握って苦行のようないきみ逃しの先で、張り裂ける皮膚の傷を負ってようやく赤子を産み落とす。それで終わりじゃない、子宮という内蔵から胎盤がはがれて、多かれ少なかれ出血も伴う」
「っ……」
聞くだけで痛々しい。
中学校の保健の授業で出産について習った気がするけれど、まだまだ先のことだしどこか他人事でそこまでリアルに考えたことはなかった。
「今のは普通分娩の話だけど、もしかしたら帝王切開だと自ら手術台に乗るんだ。お腹の皮膚も筋肉も子宮もメスを入れて切って、赤子と胎盤を取り出して、縫合して、麻酔が切れたら痛み止めの薬があっても相当しんどい」
「うぅ、痛そう」
「それが出産だ」
「っ…………大変そう、ですね」
かろうじて出たセリフはそれ。
浅はかで幼稚で情けなくなったけど、まだ経験のない子どもなわたしにはそんな言葉しか持ち合わせていなかった。
まっつんはそんなわたしを叱る素振りはなく、しかし優しく諭すような口調で続ける。
「それが17年前の今日の出来事。もちろん赤子もお腹の中から出ようと一生懸命がんばった日でもあるけどな、母さんだって、出産をがんばった日だろ?」
「っ、はい」
思わずこくりとうなずく。

