その声はとても落ち着いていた。
「もう何年も前の話だ。俺も喧嘩ばっかりだったけど、なんだかんだ憎めなかったし結局は親子なんだから切っても切れない絆があったんだよ」
「……」
悲しみはとうの昔に吹っ切れているようだけど、組んだ腕を塀に乗せてもたれるまっつんの横顔はどこか哀愁が漂う。
詳しいことは知らない。
でもまっつんはきっと、母親にもう一度会いたいと思っているような気がした。
「何かやり残したことでもあるんですか?」
母親に、と加えて目だけで見る。
まっつんはグラウンドよりも遠くを眺めて目を細める。
「……あるかもしれないな」
かすれた声は小さかったけどわたしはちゃんと聞こえた。
でもまっつんはパッと顔を上げて空を仰いだと思ったら、急にパンパンと両手を叩いて。
「母さんが大っ嫌いな篠原に、俺の特別講義を聞かせてやろう」
しんみりした空気を切り替えるように明るい口調でそう言った。
どうやらまっつんの母親の話はおしまいにしたいようだ。

