俺の気持ちに気づいてる幼馴染に、気づいてない俺が甘やかされて困る話

「お前ら、ケンカしたんか?」
「そういうわけじゃない、けど……」
昼休み、屋上の端っこで谷やんと豊と、三人で飯を食べていた。食べ終わったばかりの弁当に俺は蓋をした。
温人は、いない。だから豊かに聞かれても濁すしかできなかった。
「早く仲直りしなよ。段々隈、濃くなってるし」
「うん……」
谷やんにも心配されてしまった。自分でもわかってはいる。
温人にキスされたことがわけわからなさすぎて、この1週間不眠気味。
だって寝ようとしたらあの時の感覚を思い出してしまって、ベッドの上でどうしても暴れまわってしまう。
あの次の日から、俺は温人を避けている。いつも迎えに来る時間よりも早く家を出て、学校でもしゃべらない。できるだけ谷やんと豊とくっついていた。最初の2、3日は普段通り過ごそうとしていた温人も、段々と離れて行ってしまった。
「このまま温人と仲直りできなかったら、俺らも気まずいし」
豊がそう言うのもわかる。俺が避けるから、二人はなんかあったのだろう気づいて温人に「待ってやって」と言ってくれている。俺だって、このままでいいなんて思ってない。でも、どうしたらいいのか混乱してる。
「ま、大方あいつが我慢できんくなって、手ぇ出してきたんやろ?」
「……っ!?」
ストレートに豊かにそう言われ、俺は持っていたペットボトルを落としてしまった。倒れたペットボトルを中心に水たまりができるも、俺は豊を見つめて固まってしまっていた。
「なん、なんで」
なんでわかったん!?すら言葉にできない。
「わかるわそれくらい。あいつ、お前にべた惚れやし。クラス替え初日から気づいてるわ」
なぁ、と振られた谷やんも深く頷いている。
「だって僕が話しかけたら、瞬時に一香のとこを寄って来たし。隣の席なって挨拶してるだけなのに、めっちゃおも……警戒心強すぎだよね」
そんな最初から気づいていただなんて──ていうか、
「え?温人が俺のこと好きなんて当たり前だけど──」
思ったままを口に出しただけ。それだけで自分の体温が足もとから段々と上がっていくのを感じた。
走馬灯のように、小さい頃からの温人との日々に、最近やけにベタベタしてきたことが頭を駆け巡った。今話してるのは『好き』だけど、それは俺の思っている『好き』と違う好きだ。
それでなのかと納得がいくと同時に、自分の中でぶわりと温かい感情が湧き上がる。
「それはなぁ、俺らが言わんほうがいいよな」
「もう言ってるようなもんだけどね。それより一香はどうしたいの?」
「え?俺?」
気づかされた自分の感情と、うれしいのに恥ずかしいような今に、どんな表情したらいいのかわからない。
「そうだよ。今みたいに、いつまでも温人のこと避け続けるの?」
「あ……」
急に心の中にサーっと冷たいものが駆け巡った。
そうだった。今俺は、自分から温人を避けているんだった。
もう温人と何日話してない?いつから目も合わせられなくなった?
俺が避けるから温人ももう俺に近づいてはこなくて、もし、もうこれからずっと話せなくなくなってしまったら──
「うわっ!?どうした、一香」
考えただけで、涙が止まらなかった。
今すぐ温人に避けててゴメンって謝らないと。でももし、もうこんな面倒な俺のことなんていらないって言われたらと思うと、こわい。
手で拭っても、いつまで経っても涙が止まらない。
「ごめ……、寝てなくて情緒不安定気味なのかも」
「…………は?」
涙をぬぐいながら聞こえた馴染みのある声に顔を上げると、
「なんで一香、泣いてるの?」
温人が後ろに立っていた。
「なに?お前らなんかしたの?」
温人は怒っているのか眉間にしわを寄せて、冷たい声で二人を見据えた。
「俺らじゃねーよ、お前が泣かせてんだよ」
呆れたように豊がそう言うと、
「僕?」
温人が大きく目を見開いた。
「温人、一香とちゃんと話しな。一香もね?僕たち先に戻ってるから」
そうして谷やんと豊は先に教室へと戻ってしまった。
屋上では温人と二人。まだ俺は戸惑っていて、なにをどう言えばいいのかもわからない。
「一香」
俺の前にしゃがみこんだ温人から泣いているのが見えないように、俺は自分の顔の前に両腕を盾にした。
「一香、どうしたの?なんで泣いてるの?」
温人が抱きしめようと俺に手を伸ばしてきたから、俺は両腕でそれを遮るようにした。
「一香、ね、僕が悪かったから、泣かないで」
温人があやすように優しくそう言うも、俺は温人の腕に何度も自分の腕を押し当てた。まるで子どもが駄々こねているようにしか見えないだろう。
「ほら一香、落ち着いて。ね?」
そんなんだから、簡単に温人の腕の中につかまってしまった。だって本当に避けようだなんて思ってない。
いつだって、クラス替えの時も、にらんでるって勘違いされた時も、混乱したり落ち込んでる俺を穏やかにしてくれるのは、温人の手なんだから。強く抱きしめてくれる温人に頭を撫でられて、背中をさすられて、段々と落ち着いてきたけど、それと同時に心拍数が上がっていく。
「一香、ごめんね。勝手に離れて。怒った?」
「……」
少し離れて俺の両腕をつかんだ温人に、泣きながら首を振ることしかできない。
こっちが切なくなるくらいに悲しげな顔した温人がほっとしたように少し息を吐いた。温人だって、俺と離れてつらかったんだってわかった。
でも言わないと、なにも伝わらない。
「温人、ごめん。俺びっくりして、どうしたらいいかわからなくて」
「うん、わかってる」
そう言いながらも、俺がちゃんと話せるように温人は待っていてくれる。
「俺が避けちゃったのに、温人が俺から離れちゃうのも悲しくて」
「なんで?なんで僕と離れるのが悲しいの?」
「それは──」
温人の真剣な表情に目が離せなくて、声も出せなかった。
「一香、ならせめて、今から言うことに正直に教えて。僕とずっと一緒にいたい?」
「……うん」
自分から言えない。それが悔しくて、また涙があふれる。
「離れると、寂しい?」
「うん」
「僕のこと、谷やんと豊と違う。もっと深い感情で、好き?」
温人の手から、緊張と必死さが伝わってくる。
でも本当は、俺も言いたい。
温人のことが好きなんて当たり前すぎる。でも考えたことなかったけど、さっきわかった。
谷やんと豊と違う『好き』──。
「俺、温人が、世界で一番好き……」
俺の腕をつかんでいた温人の腕をつかんで、思い切って温人の胸に飛び込んだ。
「……一香」
ぎゅっと温人の背中に手をまわすと、温人もそのまま俺を強く抱きしめ返してくれた。

「なぁ、俺のどこが好きなの?」
泣きはらした目と鼻声で、温人を背もたれにしながら聞いた。背中にじんわりと温人の体温が沁みて、落ち着く。
「えー……、どこって言われても、明確にはないなぁ」
「は?」
思わず真上の温人を見上げた。
「じゃあ一香は言える?僕のどこが好きか?」
どこ、どこって言われると──
「その、優しいとことか、いつも一緒にいてくれるとことか」
「うん、ありがとう。でもそれって本当にしっくりきてる?」
しっくりと言われると難しい。だって温人のどこがっていうより、温人だから好きっていう方がしっくりしてる。
「僕は小さい頃から、一香のことが一番好きだよ。気づいたら好きで、気づいたらもう特別だった。そばにいるのが当たり前で、そばにいたいと思うのが日常だった。だからどこがとか、いつとかはなくって、物心ついたくらいからずっと一香だけが僕の特別。ただそれだけだよ」
温人は甘えるように俺の肩に頭をもたれかけながら、俺を抱きしめた。
「だから両想いになれてすごく嬉しかったのに、一香ってば全然無自覚で」
「それは本当に、申し訳なく……」
ずっと、俺も温人のことが好きだった。でもこの感情が当たり前すぎて、気づくのに時間がかかってしまった。
「これからは恋人として、よろしくね」
「おー……」
俺の首元に顔をこすりつける温人がかわいくて仕方がない。こんな返事しかできなくて、自分が残念過ぎる。
「ね、一香。キスしてもいい?」
「今?学校だし」
告り合ってすぐにキスとか、恥ずかしすぎるだろ!?
「でも授業中で誰もいないから。ね、ちょっとだけ」
「……いいけどっ」
これが惚れた弱みというやつか。そんなに言うならいいだろうと、恥ずかしさ半分・緊張半分で俺が言い終わるのとどっちが早いのかくらいの速さで、温人は俺にキスしてきた。触れるだけの長いキスがいつまで経っても終わらなくて、俺は温人の肩を何度も叩いた。
「長いッ!」
息できなくて、窒息するかと思ったわ!
「ごめんごめん、次は短めにするから」
「次って、おい、──っ」
さっきと同じ触れるだけのキスだと思ってたのに、口の中に入って来た生温かい感触に飛び上がった俺は温人に抑えられた。
「……短かったでしょ?」
ふわりといつものように、柔らかく笑う温人。でもいつもとは違う、熱が籠った目。きっと俺が気づいてなかっただけ。
「────っまじもう勘弁」
そんな目で見られていると自覚するのも、温人に片思いしていたんだと気づいたのも、今日なんだ。それだけで精いっぱいなのに、もうキスまでしてしまった。
恥ずかしくて温人ともう目が合わせられなくて俺が両手で顔を隠すと、温人が「かわいい」と笑う声が聞こえた。