俺の気持ちに気づいてる幼馴染に、気づいてない俺が甘やかされて困る話

「なにガンつけてくれてんだよ?」
「え……」
そんなつもり、全くない。ただ俺は温人が来たかと思って、顔を上げただけなのに。
 今日は温人は委員会があるというから、俺はその間、図書室で適当に時間をつぶし、もう終わるだろう時間に教室に戻った。けどまだ温人がいないかったから、『先帰る』と送ったら『あと5分くらいで終わりそうだから、待ってて』と返って来た。すでに1時間以上待ってる俺は『たらたら帰ってるから、追いかけて来い』とメッセを送り、ゆっくりと階段を降り、ゆっくりと靴を履き替え、校門の前までたどり着いてしまったもんだから、門の横で温人が来るのを待っていた。すると影がかかったから温人が来たんかと見上げたら、全然知らない人で、違ったわと目をそらす前にまたにらんでいると言われてしまった。
「だから、ケンカ売ってんのかって聞いてんだよ」
こわい。思わず、すくみあがりそうになる。見上げた先の先輩は俺より20㎝以上高いし、眉短いし、眼光鋭いし、片幅も広い。俺なんてすぐにぺちゃんこにされてしまいそうだ。
こういうとき、いっつもどうしたらいいのかわからなくてオロオロすることしかできない。
「あ、その、にらんでたわけじゃなくて……」
「はぁ?なに言ってんのか聞こえねんだけど」
なんとか絞り出した声も、先輩までは届かなかったようだ。一歩、俺の方に踏み出してきた先輩を前に、もう終わりだと思った。
「すみません先輩。こいつがどうかしましたか?」
ふ、と俺の目を隠すように伸びてきた手と、馴染みのある声が降って来た。
「おー、温人じゃねぇか。いや、なんかこいつにすっげぇにらまれてさ」
「すみません。こいつ人見知りで、すぐ顔が強張っちゃうんです、全然にらんでたわけじゃないんで」
温人の手を少し下げて見ると、先輩はとっても陽気な顔をしていた。温人もスムーズに、というか珍しく淡々と話してる気がする。俺と話してるときはいつも楽しそうだったり、感情がみえるのに、今は見えない。
「そっかそっか。いや、俺も早とちりして悪かったな。お前ら、気をつけて帰れよ」
「ありがとうございます」
そうして先輩は何事もなかったかのように、俺達とは逆方向へと歩いていった。
助かった。けど、俺はまた温人に世話を焼かせてしまった。
「待っててって、言ったのに」
その声に目だけ上げると、珍しく温人が拗ねた顔してた。
「ごめんて。でも追いついただろ?」
「そうだけど」
なにが不満なのかわからない。けど、明らかにムスッとした顔のままだ。
「わーったよ。梅んとこ行って、なんか買ってやるから。機嫌なおせ?」
「……それなら、まぁ」
「おーし、行くぞ」
温人の背中を叩いて、梅の店に向かおうとした。けれど包まれた手の感覚に、思わず立ち止まった。
「おい」
「なに?」
なんでお前はそんなに平然としているんだと聞きたい。
「なんで手、つないでんの?」
「え、今更。保育園の時からつないでるでしょ?」
なに今更当たり前のこと聞いて来てんだと言わんばかりの温人に、疑問が止まらない。
今日だけじゃない。最近よく、温人は俺と手をつなごうとしてくる。
どうしたっていうんだ、急に人さびしいのか!?こっちは手汗気になるし、握り返していいもんかわからないし、とにかくびっくしするし心臓がうるさいんだよ!
「梅のとこ、行かないの?」
歩き出さない俺に疑問を抱いたのか、温人は小首傾げてる。
「行くよっ!」
「声がでけーよ、元気だなぁ」
そうして温人に手をつかまれたまま、俺達は梅の店に向かった。

「梅―、来たぞー」
学校帰り、今日は温人と梅の甘味屋に寄った。
「あれあんたたち、また来たんかい」
「常連ありがたいだろ」
「はいはい」
梅の甘味屋は学校から、学校から家に帰る途中の小径を右に曲がった、家から3分くらいのとこにある。小さいときから温人と二人でよく来ている。
「温人、なんにする?」
梅は温人の顔が好きだから、注文の時はいつも二人で見つめ合っている。
「僕、うどん小にしようかな」
「はい、じゃあ少し待ってな」
「梅、俺にも聞けよ」
「あんたどうせ温人と同じもん頼むんだから」
言い返したいけど、当たっているから返せもしない。
昔はもっと席数も多かったけど、今は座敷席2つとテーブル席1つ、壁に駄菓子コーナーがる梅の店にたまに温人とこうしておやつを食べにくる。食事はうどんとそばの2択で、あとはみたらし団子とか、おはぎがある。梅が自分のできる範囲でやっているから、週に3日しか開いていない。
「あ、梅。俺、みたらしも」
「はいはい、わかってんよ」
俺は毎回みたらしも頼むから、もう注文しなくても出てくる。けど一応言う。
梅が昆布茶を机に乗せてから、俺は机の上にだらりと頭を乗せた。
「なに?どしたの?」
「いや、またにらんでるって思われて……。俺ってそんな目つき悪い?」
これでも傷ついている。小学生の時はちょっと横目しただけでにらんでると思われてたけど、顔ごと動かすようにしたりとか、急に見たりするとにらんでるように見える確率上がるからゆっくり見たりとか、いろいろしてる。
「大丈夫だよ、年々目元がやわらかくなってるから」
人見知りで周りに警戒心いっぱいで鋭い目つきだった俺の目も、温人がずっとそばにいてくれるから前よりは丸くなった気はしている。
「……ほんとかよ」
机に顔を乗せたまま、目だけで温人を見上げた。
「ほんとほんと、大丈夫。一香はかわいいよ」
そう言いながら、温人が優しく俺を撫でてくれる。そうすると、心の中のもやがだんだんと薄くなっていく。温人の手はいつだって俺を安心させてくれる。なのに、最近はドキドキもさせられるから、困る。
「あんたたち、うどんできたよ」
「ありがと、梅」
梅が運んできた素うどんを受け取った温人は、「はい、一香。熱いから気をつけた」と俺の前においてくれた。どうせ俺は猫舌だよ。

「あー、うま」
うどんも食べ終わり、ゆっくりと俺はみたらし団子を食べる。
「好きだよね、みたらし。でもここでしか食べないよね?」
向かいで俺があげたみたらし団子1本を食べ終わった温人は、梅に追加でお茶を入れてもらっている。
「俺、梅のみたらし団子が好きなわけで、他の店のは別に好きじゃないから」
「よせやい、照れんじゃないか。あたしが店を閉めるときは、温人にレシピ渡しとくよ」
「梅の味は、僕が引き継ぐよ」
温人と梅との掛け合いはいつものことだ。ちなみに温人に渡すのは、俺が全く料理ができないからだろう。
「他の店と味が違うから、梅のみたらしが好きってこと?」
「味って言うか、……温人がお小遣い貯めてはじめてくれた誕プレが、梅のみたらし団子だから」
きっと温人は俺にくれたこと、覚えてないんだろうなぁ、と心の中に寂しさの波が押し寄せたけど、なんでもないふりして返した。
『一香、たんじょうびおめでとう』
小学生低学年の、まだ小さかった温人が皿洗いとかの家事手伝ったお小遣いを貯めて買ってくれたみたらし団子。だから俺はずっと梅のみたらし団子が好き。
「……一香さ、」
「うん」
しばらく一人で思い出に浸ってしまっていたからだろうか。普段の優しい顔した温人じゃなくて、ちょっと不機嫌なのか真顔になってる。
「ほんとさ、そういうところだってわかってる?」
「……え?」
不機嫌そうな温人に言われ、なにか変なこと言っただろうかと焦ってくる。
「まぁいいや。みたらしも食べたし、そろそろ帰ろ」
「う、うん……」
そのまま鞄を持って立ち上がった温人に続いて、俺も店から出た。

「な、温人。なんか怒ってる?」
帰り、温人は全然話すことなく家まで着いてしまった。
「怒ってるわけじゃないけど……」
珍しく温人にしては歯切れが悪い、
「じゃあ、なんだよ?」
このままだと気になって、今日の夜寝れない気がする。
「んー……、もういいかなぁ……」
じーっと、温人は俺を見つめる。ぼそぼそとつぶやいてるけど、なにがいいんだ?
「ちょっとだけ、一香の部屋行っていい?すぐ帰るから」
なんで?って思うし、部屋上がられていつもみたいにベタベタされたら心臓がキューってするから困るけど、でもこの変な感じを解消したくて、俺は小さく頷いた。
「あれ?今日ゆみちゃんは?」
「もうすぐ、帰ってくると思う」
今日はおかんも残業で遅くなるから、晩飯買ってから帰ってくる。だから今、家には俺と温人しかいない。
「それで、なにっ──」
階段を上がって俺の部屋に入った瞬間、振り向きざまに温人に抱きしめられた。
「……え?なに」
また保育園の時もしてたでしょ戦法か!?
「一香さぁ、小学校の時の誕プレ覚えてるとか、かわいすぎなんだけど」
そう言いながら、温人は俺をもっと強く抱きしめる。今までふんわりと抱きしめられたことはあっても、こんなに力強くされたことはない。
「え?温人?どうした?」
戸惑いながら、俺は温人の肩を軽く叩いた。
「僕、まだ待てると思ってたけど、もう限界みたい」
「──え?」
少しだけ体を離した温人が、俺の顔に手をあてて、そのまま顔を近づけてきた。
真の前に温人の顔があって、唇に柔らかな感触があたっている。
「……」
触れた場所が離れてから、しばらく俺を見つめていた温人は、俺の額に自分の額をくっつけた。なにが起こったのか、理解が追い付かない俺は、ただ茫然と温人を見るしかなかった。
「ね、一香。どうして僕がこういうことするのか、僕がこういうことすると一香はどう思うのか、そろそろ考えて?」
そう言って、温人は優しく俺の頭を撫でてから部屋から出て行った。
「………………………………はぁ!?」
大声で俺がそう叫べたのは、温人が帰ってからしばらくしてからだった。