「な、温人。頼むよ、一回でいいから」
「絶対嫌。この話、もう終わりだから」
「そんなこと言うなよ。な?」
「うざっ。ね、一香」
「え?」
まさか俺にうざいに同意しろって言われているのかと思って、めっちゃビビった。けど違う。どうでもよさそうな声していた温人が俺を呼ぶときは、いつもの優しく包むような声をしていたから。
まだ着替えている生徒が多い更衣室の中、他のクラスメイトに温人が話しかけられていたから、俺は壁際で所在なく着替えの準備をしていた。
「な、なに?」
「おい、温人聞けよ!合コンだぞ」
ていうか温人まだ話しかけられてない?と思いながらも、
「これ見てよ」
清々しいほどに聞こえてない温人と奥にいるクラスメイトに交互に目をやってしまう。俺は話しかけられていると言った方がいいのか、どうしたらいいのか戸惑ってしまう。
悩んでいると、ゆっくりと温人が後ろを向いた。
「うるせーよ」
そう低く響く声が聞こえた気がしたけど、どこから聞こえてきたんだろう。温人の方から聞こえた気もするけど、俺じゃあるまいし温人がそんな言葉遣いするわけない。きょろきょろと見回したけど、更衣室中が静まってるからわからない。
けど温人が肩から吐くくらいのため息をつくと、後ろで叫んでいた奴は荒くため息を吐いてから諦めて着替えを始めた。
「でね、一香。見てて?」
「え、うん……」
くるっと俺に爽やか笑顔を向けた温人はなにをするのかと思いきや、腕をバッテンしてTシャツの裾に手をかけ、そのまま背中を軽く曲げた。そこから手を上げ、Tシャツをゆっくりと腰から肩の方へと上げ、すぽっと頭から脱いだ。
「どう?」
二ッとドヤ顔で俺に笑いかける温人。
「……か、かっけー!」
「でしょ?」
自然と声に出ていた。なんかわからないけど、大人な脱ぎ方な気がする。
「一香もやってみ?ほら」
「おー、……んん?」
温人の右横で、俺もTシャツに手をかけて脱ごうとしたが、頭が引っかかって脱げない。
「かわい……」
「笑ってんな、温人。もう、できる……」
温人が顔に手をあてて笑ってるから、むきになって脱ごうとしているとよたついてしまい、背中が誰かにぶつかった。頭の上まで上げていた腕を下ろした。
「あ、ごめん。谷やん、豊」
「全然」
「どーってことねーよ」
後ろに立っていた二人に軽い頭突きをお見舞いしてしまったようだ。
二人とは高校2年で同じクラスになった。初日に毎年気の重くて仕方のない自己紹介で思いっきり顔面がこわばってしまい、今年もきっとクラスメイトから距離を取られるだろうと落ち込んでいたところで、隣の席から「僕、谷。よろしく~」と非常にゆるい挨拶をされた。谷やんと仲のいい豊も、俺と同じように目つきの悪さに加え、体格がいいから一層ガラの悪そうに思われていた。だから同じような俺にも谷やんは初手から壁なく接してくれて、豊とも仲良くなれた。だいたい学校では温人もいれた4人で過ごすことが多い。
「つか一香、なにしてんだ?」
「今、温人に脱ぎ方教えてもらって」
「「脱ぎ方……?」」
二人が眉をひそめて、疑念いっぱいの目で俺を見下ろしてくる。谷やんも豊も、温人より少し背が高くて、二人の間に挟まれた俺はさらわれた宇宙人状態だ。
「そろそろ一香に脱ぎ方教えておかないとと思って」
「お前、どういう意味で言ってんの?」
「きゃー、いやらしー」
「ハハ」
温人が乾いた笑い声を上げていると、谷やんが温人から守るように俺に両腕を回した。体育の後の汗ばんだ肌があたって微妙の気分。
「なに?ついに一香を脱がしそうなとこまでいったんか?」
豊が温人にそう聞くと
「まさか全然」
「だよねー、安心した。まだ一香には子猫の純粋なままでいてほしいもん」
深く頷きながら、谷やんが俺の頭を撫でてくる。谷やんの温人と違って、ちょっとがさつな撫で方はあまり好きではないから、遠慮しがちにその手首をつかんで下ろした。
「子猫って、俺……?」
意味不明すぎる。チビってわけでもなさそうだしと、戸惑いながら聞いた。
「そうだよー。まだしばらく温人の毒にやられないまま、真っ白でいてほしい」
谷やんがシャツのボタンを留める隣で、着替え終わった豊も「だよなー」と言った。
「なに言ってんの?僕、グレーくらいだよ」
「お前なんて真っ黒だ」
「自分でもくすんでるって言ってる~」
「ハハ」
三人は通じ合ってるけど、俺はよくわからない。温人はいつも優しいし、クラスでも温人に話しかけようとするやつは多い。
温人に目をやると、もう着替え終わって俺らを待っているようだ。目が合うと、にこりと笑いかけてくれる。
「おい一香、いつまでも裾つかんでねーで早く着替えろよ」
「そうだった!」
はっと周りを見回すと、混んでいた更衣室もすっかりすいて、俺達と他に数人しか残っていなかった。
バッテン脱ぎしたい、が、それを試していると時間がないから俺はいつものようにTシャツの首元を右手でつかんでから引っ張って脱いだ。
「ほらこれ。わかる?めっちゃのびんの」
「いや、わかるけどさぁ」
「首元、ビロビロだもんね」
俺のTシャツを受け取った温人が、畳みながら二人に言った。
俺も、自覚があるし、おかんから何回も言われた。俺の脱ぎ方だと、右半分だけ首元が伸びるのだ。昨日も、リビングでお菓子食べてたら洗濯物を畳むおかんに温人がいる前で怒られた。だから教えてくれたんだろうけど、また時間あるときに脱ぎ方治すとして今は急ぐ。
「ま、そのうちできるようになるだろ。温人は過保護なんだよ」
「そう?かわいい子は大事にしたいでしょ。他はどうでもいいけど」
「お、堂々と言うね~。さっきのもホントに性格悪かったよ。その顔と成績のおかげで許されてるよね」
「僕、パーフェクトでごめんね」
「わぁ、うざー」
三人がわちゃわちゃ話していたけど、俺は着替えるのに必死で全然聞こえていなかった。
「ただいまー」
「おじゃまします」
おかんから『温人に持って帰らせるものあるから、家に寄らせるように』とメッセが来ていた。
「温人、来たぞー」
「おかえりー、ちょっと待ってて。もうすぐ肉じゃができるから、一香の部屋で遊んでて」
「え……」
台所にいたおかんに声をかけると、そんなことを言われてしまった。
なんで出来上がってないんだよ!?つーか、数分のことならリビングで待たせるとかもあるだろ!?
そんな俺のパニックなどお構いなしに、「はーい」と返事した温人は行こうかと、俺の部屋に向かってしまった。
「今日体育あったから、つかれたー」
「うん」
俺の部屋に入ると、ローテーブルの前に座った温人は普段と変わらない。けどいつ密着温人が発生するのか、俺は警戒を怠らない。
とりあえずなんかしてた方が安全かと、俺は部屋着に着替えようとした。
「あ、待って一香。バッテンしてみ?」
そうだった。脱ぎ方の練習。俺はワイシャツの上3つまでボタンを外し、裾に手をかけ腕を上げた。思い返すとさっきはできていなかった、温人がやっていたみたいに少しだけ背中も丸めた。
「そーそー、上手上手」
「……脱げた!」
脱いだ瞬間、顔を上げた先に温人が立っていた。
「あ……」
「上手にできたね」
そのまま温人が、シャツを腕に巻いたままの俺の背中に両腕を回してきて、じーっと俺を見ている。
なに、なんなの!?そんな見られると、インナーしか着てないからってわけじゃないけど恥ずかしいんだけど!?
俺は温人の腕の中で、必死に頭を回転させた。
「そ、そういえば温人、鍛えてんの?」
なにか話題をとなんとか俺はひねり出した。温人が更衣室でTシャツを脱ぐ時に、腹が割れていたのがちらりと見えた。
「うん。その方が好きかと思って」
「へー、俺も鍛えたら割れるかな?」
俺が自分の腹に視線を落とすと「しないでいいよ」と聞こえた。その声に顔を上げると
「一香は今のままでいいよ。僕、割れてるよりか真っ白でふわふわなお腹の方が好きだから」
するりと俺の背中に回っていた温人の手が、インナー越しに俺の腹を撫でた。
「ぎゃー!えっち!触んなら1回100円っ!」
遠慮って知らないのかってくらいにぶにぶにと撫でるから、ちょっと冗談めかして俺は両手で温人の手をつかんだ。
「ははっ。ごめんごめん、僕のも触っていいから」
ほら、と温人が制服をめくりあげて俺の手を温人の腹筋に当てた。
「……おぉ、すげー」
横線はまだうっすらだけど、きれいに縦に二本線が入っている。
「うわー、かっこいー」
それに固い。俺のぽよぽよの腹と全然違う。しばらく撫で続けていると
「一香、さすがに、そろそろ……」
「え?」
温人の腹を撫でまわし過ぎたからだろう。さすがの温人も顔を赤くしている。
「あら、ごめんなさいね!」
急いで温人の腹から手を離し、俺は着替えを再開した。
さすがに触りすぎたと反省。
「ごめんね、いつかいっぱい触らせてあげるから」
「なんじゃそりゃ」
適当に返すと「でも」と温人の声が聞こえた。
「一香にかっこいいって思われたくて始めたから、言ってもらえてうれしい」
温人が自分の腹をさすりながらそう言った。
「いや、腹筋かっこいいだろ」
「腹筋のある僕、かっこいい?」
「……おう」
なんでそんな聞くんだろう。そんな何回も確認しなくても。よっぽど頑張ったんだろうか。
疑問に思っていると、ゆっくりと温人の手が俺の頬へと伸びてきた。
「温人―!肉じゃができた!」
階下から聞こえてきたおかんの大声に、「……残念」と温人は手を下げた。
「今日は帰るね」
「……おう」
「バイバイ一香、また明日」
「おー……」
そうして鞄を持った温人は俺の頭を撫でてから、階段を下りて行った。
さっきの、なんだったんだ?なんかわからんけど、顔が火照って仕方がない。
「絶対嫌。この話、もう終わりだから」
「そんなこと言うなよ。な?」
「うざっ。ね、一香」
「え?」
まさか俺にうざいに同意しろって言われているのかと思って、めっちゃビビった。けど違う。どうでもよさそうな声していた温人が俺を呼ぶときは、いつもの優しく包むような声をしていたから。
まだ着替えている生徒が多い更衣室の中、他のクラスメイトに温人が話しかけられていたから、俺は壁際で所在なく着替えの準備をしていた。
「な、なに?」
「おい、温人聞けよ!合コンだぞ」
ていうか温人まだ話しかけられてない?と思いながらも、
「これ見てよ」
清々しいほどに聞こえてない温人と奥にいるクラスメイトに交互に目をやってしまう。俺は話しかけられていると言った方がいいのか、どうしたらいいのか戸惑ってしまう。
悩んでいると、ゆっくりと温人が後ろを向いた。
「うるせーよ」
そう低く響く声が聞こえた気がしたけど、どこから聞こえてきたんだろう。温人の方から聞こえた気もするけど、俺じゃあるまいし温人がそんな言葉遣いするわけない。きょろきょろと見回したけど、更衣室中が静まってるからわからない。
けど温人が肩から吐くくらいのため息をつくと、後ろで叫んでいた奴は荒くため息を吐いてから諦めて着替えを始めた。
「でね、一香。見てて?」
「え、うん……」
くるっと俺に爽やか笑顔を向けた温人はなにをするのかと思いきや、腕をバッテンしてTシャツの裾に手をかけ、そのまま背中を軽く曲げた。そこから手を上げ、Tシャツをゆっくりと腰から肩の方へと上げ、すぽっと頭から脱いだ。
「どう?」
二ッとドヤ顔で俺に笑いかける温人。
「……か、かっけー!」
「でしょ?」
自然と声に出ていた。なんかわからないけど、大人な脱ぎ方な気がする。
「一香もやってみ?ほら」
「おー、……んん?」
温人の右横で、俺もTシャツに手をかけて脱ごうとしたが、頭が引っかかって脱げない。
「かわい……」
「笑ってんな、温人。もう、できる……」
温人が顔に手をあてて笑ってるから、むきになって脱ごうとしているとよたついてしまい、背中が誰かにぶつかった。頭の上まで上げていた腕を下ろした。
「あ、ごめん。谷やん、豊」
「全然」
「どーってことねーよ」
後ろに立っていた二人に軽い頭突きをお見舞いしてしまったようだ。
二人とは高校2年で同じクラスになった。初日に毎年気の重くて仕方のない自己紹介で思いっきり顔面がこわばってしまい、今年もきっとクラスメイトから距離を取られるだろうと落ち込んでいたところで、隣の席から「僕、谷。よろしく~」と非常にゆるい挨拶をされた。谷やんと仲のいい豊も、俺と同じように目つきの悪さに加え、体格がいいから一層ガラの悪そうに思われていた。だから同じような俺にも谷やんは初手から壁なく接してくれて、豊とも仲良くなれた。だいたい学校では温人もいれた4人で過ごすことが多い。
「つか一香、なにしてんだ?」
「今、温人に脱ぎ方教えてもらって」
「「脱ぎ方……?」」
二人が眉をひそめて、疑念いっぱいの目で俺を見下ろしてくる。谷やんも豊も、温人より少し背が高くて、二人の間に挟まれた俺はさらわれた宇宙人状態だ。
「そろそろ一香に脱ぎ方教えておかないとと思って」
「お前、どういう意味で言ってんの?」
「きゃー、いやらしー」
「ハハ」
温人が乾いた笑い声を上げていると、谷やんが温人から守るように俺に両腕を回した。体育の後の汗ばんだ肌があたって微妙の気分。
「なに?ついに一香を脱がしそうなとこまでいったんか?」
豊が温人にそう聞くと
「まさか全然」
「だよねー、安心した。まだ一香には子猫の純粋なままでいてほしいもん」
深く頷きながら、谷やんが俺の頭を撫でてくる。谷やんの温人と違って、ちょっとがさつな撫で方はあまり好きではないから、遠慮しがちにその手首をつかんで下ろした。
「子猫って、俺……?」
意味不明すぎる。チビってわけでもなさそうだしと、戸惑いながら聞いた。
「そうだよー。まだしばらく温人の毒にやられないまま、真っ白でいてほしい」
谷やんがシャツのボタンを留める隣で、着替え終わった豊も「だよなー」と言った。
「なに言ってんの?僕、グレーくらいだよ」
「お前なんて真っ黒だ」
「自分でもくすんでるって言ってる~」
「ハハ」
三人は通じ合ってるけど、俺はよくわからない。温人はいつも優しいし、クラスでも温人に話しかけようとするやつは多い。
温人に目をやると、もう着替え終わって俺らを待っているようだ。目が合うと、にこりと笑いかけてくれる。
「おい一香、いつまでも裾つかんでねーで早く着替えろよ」
「そうだった!」
はっと周りを見回すと、混んでいた更衣室もすっかりすいて、俺達と他に数人しか残っていなかった。
バッテン脱ぎしたい、が、それを試していると時間がないから俺はいつものようにTシャツの首元を右手でつかんでから引っ張って脱いだ。
「ほらこれ。わかる?めっちゃのびんの」
「いや、わかるけどさぁ」
「首元、ビロビロだもんね」
俺のTシャツを受け取った温人が、畳みながら二人に言った。
俺も、自覚があるし、おかんから何回も言われた。俺の脱ぎ方だと、右半分だけ首元が伸びるのだ。昨日も、リビングでお菓子食べてたら洗濯物を畳むおかんに温人がいる前で怒られた。だから教えてくれたんだろうけど、また時間あるときに脱ぎ方治すとして今は急ぐ。
「ま、そのうちできるようになるだろ。温人は過保護なんだよ」
「そう?かわいい子は大事にしたいでしょ。他はどうでもいいけど」
「お、堂々と言うね~。さっきのもホントに性格悪かったよ。その顔と成績のおかげで許されてるよね」
「僕、パーフェクトでごめんね」
「わぁ、うざー」
三人がわちゃわちゃ話していたけど、俺は着替えるのに必死で全然聞こえていなかった。
「ただいまー」
「おじゃまします」
おかんから『温人に持って帰らせるものあるから、家に寄らせるように』とメッセが来ていた。
「温人、来たぞー」
「おかえりー、ちょっと待ってて。もうすぐ肉じゃができるから、一香の部屋で遊んでて」
「え……」
台所にいたおかんに声をかけると、そんなことを言われてしまった。
なんで出来上がってないんだよ!?つーか、数分のことならリビングで待たせるとかもあるだろ!?
そんな俺のパニックなどお構いなしに、「はーい」と返事した温人は行こうかと、俺の部屋に向かってしまった。
「今日体育あったから、つかれたー」
「うん」
俺の部屋に入ると、ローテーブルの前に座った温人は普段と変わらない。けどいつ密着温人が発生するのか、俺は警戒を怠らない。
とりあえずなんかしてた方が安全かと、俺は部屋着に着替えようとした。
「あ、待って一香。バッテンしてみ?」
そうだった。脱ぎ方の練習。俺はワイシャツの上3つまでボタンを外し、裾に手をかけ腕を上げた。思い返すとさっきはできていなかった、温人がやっていたみたいに少しだけ背中も丸めた。
「そーそー、上手上手」
「……脱げた!」
脱いだ瞬間、顔を上げた先に温人が立っていた。
「あ……」
「上手にできたね」
そのまま温人が、シャツを腕に巻いたままの俺の背中に両腕を回してきて、じーっと俺を見ている。
なに、なんなの!?そんな見られると、インナーしか着てないからってわけじゃないけど恥ずかしいんだけど!?
俺は温人の腕の中で、必死に頭を回転させた。
「そ、そういえば温人、鍛えてんの?」
なにか話題をとなんとか俺はひねり出した。温人が更衣室でTシャツを脱ぐ時に、腹が割れていたのがちらりと見えた。
「うん。その方が好きかと思って」
「へー、俺も鍛えたら割れるかな?」
俺が自分の腹に視線を落とすと「しないでいいよ」と聞こえた。その声に顔を上げると
「一香は今のままでいいよ。僕、割れてるよりか真っ白でふわふわなお腹の方が好きだから」
するりと俺の背中に回っていた温人の手が、インナー越しに俺の腹を撫でた。
「ぎゃー!えっち!触んなら1回100円っ!」
遠慮って知らないのかってくらいにぶにぶにと撫でるから、ちょっと冗談めかして俺は両手で温人の手をつかんだ。
「ははっ。ごめんごめん、僕のも触っていいから」
ほら、と温人が制服をめくりあげて俺の手を温人の腹筋に当てた。
「……おぉ、すげー」
横線はまだうっすらだけど、きれいに縦に二本線が入っている。
「うわー、かっこいー」
それに固い。俺のぽよぽよの腹と全然違う。しばらく撫で続けていると
「一香、さすがに、そろそろ……」
「え?」
温人の腹を撫でまわし過ぎたからだろう。さすがの温人も顔を赤くしている。
「あら、ごめんなさいね!」
急いで温人の腹から手を離し、俺は着替えを再開した。
さすがに触りすぎたと反省。
「ごめんね、いつかいっぱい触らせてあげるから」
「なんじゃそりゃ」
適当に返すと「でも」と温人の声が聞こえた。
「一香にかっこいいって思われたくて始めたから、言ってもらえてうれしい」
温人が自分の腹をさすりながらそう言った。
「いや、腹筋かっこいいだろ」
「腹筋のある僕、かっこいい?」
「……おう」
なんでそんな聞くんだろう。そんな何回も確認しなくても。よっぽど頑張ったんだろうか。
疑問に思っていると、ゆっくりと温人の手が俺の頬へと伸びてきた。
「温人―!肉じゃができた!」
階下から聞こえてきたおかんの大声に、「……残念」と温人は手を下げた。
「今日は帰るね」
「……おう」
「バイバイ一香、また明日」
「おー……」
そうして鞄を持った温人は俺の頭を撫でてから、階段を下りて行った。
さっきの、なんだったんだ?なんかわからんけど、顔が火照って仕方がない。



