「なぁ、温人。お前知ってるか」
俺は遠くの方で輝く星々を眺めながら、隣で足を伸ばして座っている温人に言った。
「なにが?」
なんも気にする様子もなく、温人はいつも通りゆったりと答えた。
「俺らさ、何時からここにいると思う?」
「放課後からだから、6時くらいとか?」
温人は俺の方にこてんと首を傾ける。
「ブブーッ!ふせーかいでーすっ!」
胸の前で大きなバツを作って見せると、優しい温人の顔がくしゃりとした。
「なんだよ、腹立つ言い方だな」
そう言いながら口元にゆるく握った拳をあて、ふふっと笑っている。俺の好きな温人の顔。
「正解は……、4時半から!」
ピコーンと俺は人差し指を立てた。
「そっかぁ。まだ明るかったもんなぁ」
「そうだよ」
さっきまでいた夕陽はどこにいったのか。気づいた時には日が暮れて、今やどっぷり夜だ。満天の星空を土手沿いの原っぱでゆるく座って見上げている。
放課後、少し谷やんと豊とだべってから、さぁ帰るべと家路についていた。はずなのに、気づけ段ボールで土手滑りに興じていた。ちなみに昨日も同じことをしている。この二日間の二人のブームだ。
「俺さぁ、夕陽が半分沈んだら帰ろうって言ったじゃん」
「言ってたなぁ。でも一香がもっかいだけ滑るって言ったんじゃん」
「そうだけど……」
止めてくれたらよかったのに、と勝手に軽く八つ当たり。
温人に「そろそろ帰るか」と言われたけど、言われる直前に回転しながら滑るというスーパーな滑りをして、見ていた小学生たちから「すげー!」と拍手をもらい、俺は興奮していた。その結果、あと1回を繰り返し、いつの間にか小学生もいなくなっていて、俺はひたすら温人に滑り芸(回転しながらとか、カーブしながらとか)を披露していた。
さすがに暗くなってきたら危ないということで、滑るのをやめて休憩してから帰ると言っていたのに、気づけば真っ暗。
「でも、楽しかっただろ?」
俺を覗き込むように三角座りの膝に顔を乗せた温人に、悔しいけど小さく「うん」と言った。
「気晴らしになった?なんか、へこんでただろ?」
じっと温人から優しい目で見つめられ、体の奥からほっとした息が吐き出た。
温人が気づいてくれていたんだって、だからずっと付き合ってくれていたんだと思うと、胸の奥がきゅうっとした。
少しだけ、へこんでいた。またにらんでいるって間違えられたから。
昼休みに廊下を歩いていて、窓の外をモンシロチョウがひらひら飛んでいるのを目で追っていたら、ちょうどその近くを歩いていた生徒が「あいつ、俺らのことにらんでね?」と言っているのが聞こえたから。今日は何もなかったからよかったけど、悪いときは「なににらんでんだよ?」と突っかかられる。正直、めっちゃ怖い。かなりビビる。
平均より背も低く、猫目な上に気の強そうな顔してるらしいから、すぐに誤解される。鏡の前で笑顔の練習も、横目向いた時ににらみ顔にならない練習も小学生のときからしてるけど、一向に直った気がしない。自然に人から好感持たれるような、温人のように優しく人を安心させるような笑顔は浮かべられない。
温人だけ、小さい頃から誤解せずに一緒にいてくれて、クラスでも俺のフォローしてくれている。
「うん、ありがと」
俺がそう言うと、温人は二回、俺の頭をポンポンと撫でてくれた。その手がとても優しくて
「じゃ、帰ろ」
離れたとき、少しだけ寂しかった。
「うん」
立ち上がってからズボンを軽く払って、家に帰ろうと土手を上がっていると「あ」と温人が声を上げた。
「なに?」
「いや、かあちゃんから帰りにタナカでコロッケ買って来いってメッセ来てた。買ったら一香の家行くようにって」
「えっ!?」
俺も急いでスマホを見ると、おかんから『帰りに温人連れてきな。洋子ちゃんもうちでご飯食べるから。あとタナカでコロッケ。7時厳守』と来ていた。今は、6時48分──。
「急げ!」
言うと同時に俺は走り出した。タナカは7時に閉まる。すでに7時までには帰れないから、コロッケもなかったら、さらにおかんに怒られる。
「待ってよ、一香」
暗くなった歩道を、ゆっくりと柴犬の散歩するじいさんや会社帰りのサラリーマンにぶつからないように気をつけながら、俺達は走る。
「ほら一香、早く」
運動神経の悪い俺の方が先に走り出したが、早々に温人に追い抜かされ、すれ違いざまにつかまれた手を引っ張られている。
いいんだけど、ナチュラルに手を繋ぐのはやめてほしい。手を意識してしまって、走るのがもっと遅くなる。
でもそれ以上に、先に行って買っておいてほしくなっていった。温人のスピードで走るの、本当にしんどい。
タナカについたとき、俺は息切れしすぎて声も出せなかった。
俺は遠くの方で輝く星々を眺めながら、隣で足を伸ばして座っている温人に言った。
「なにが?」
なんも気にする様子もなく、温人はいつも通りゆったりと答えた。
「俺らさ、何時からここにいると思う?」
「放課後からだから、6時くらいとか?」
温人は俺の方にこてんと首を傾ける。
「ブブーッ!ふせーかいでーすっ!」
胸の前で大きなバツを作って見せると、優しい温人の顔がくしゃりとした。
「なんだよ、腹立つ言い方だな」
そう言いながら口元にゆるく握った拳をあて、ふふっと笑っている。俺の好きな温人の顔。
「正解は……、4時半から!」
ピコーンと俺は人差し指を立てた。
「そっかぁ。まだ明るかったもんなぁ」
「そうだよ」
さっきまでいた夕陽はどこにいったのか。気づいた時には日が暮れて、今やどっぷり夜だ。満天の星空を土手沿いの原っぱでゆるく座って見上げている。
放課後、少し谷やんと豊とだべってから、さぁ帰るべと家路についていた。はずなのに、気づけ段ボールで土手滑りに興じていた。ちなみに昨日も同じことをしている。この二日間の二人のブームだ。
「俺さぁ、夕陽が半分沈んだら帰ろうって言ったじゃん」
「言ってたなぁ。でも一香がもっかいだけ滑るって言ったんじゃん」
「そうだけど……」
止めてくれたらよかったのに、と勝手に軽く八つ当たり。
温人に「そろそろ帰るか」と言われたけど、言われる直前に回転しながら滑るというスーパーな滑りをして、見ていた小学生たちから「すげー!」と拍手をもらい、俺は興奮していた。その結果、あと1回を繰り返し、いつの間にか小学生もいなくなっていて、俺はひたすら温人に滑り芸(回転しながらとか、カーブしながらとか)を披露していた。
さすがに暗くなってきたら危ないということで、滑るのをやめて休憩してから帰ると言っていたのに、気づけば真っ暗。
「でも、楽しかっただろ?」
俺を覗き込むように三角座りの膝に顔を乗せた温人に、悔しいけど小さく「うん」と言った。
「気晴らしになった?なんか、へこんでただろ?」
じっと温人から優しい目で見つめられ、体の奥からほっとした息が吐き出た。
温人が気づいてくれていたんだって、だからずっと付き合ってくれていたんだと思うと、胸の奥がきゅうっとした。
少しだけ、へこんでいた。またにらんでいるって間違えられたから。
昼休みに廊下を歩いていて、窓の外をモンシロチョウがひらひら飛んでいるのを目で追っていたら、ちょうどその近くを歩いていた生徒が「あいつ、俺らのことにらんでね?」と言っているのが聞こえたから。今日は何もなかったからよかったけど、悪いときは「なににらんでんだよ?」と突っかかられる。正直、めっちゃ怖い。かなりビビる。
平均より背も低く、猫目な上に気の強そうな顔してるらしいから、すぐに誤解される。鏡の前で笑顔の練習も、横目向いた時ににらみ顔にならない練習も小学生のときからしてるけど、一向に直った気がしない。自然に人から好感持たれるような、温人のように優しく人を安心させるような笑顔は浮かべられない。
温人だけ、小さい頃から誤解せずに一緒にいてくれて、クラスでも俺のフォローしてくれている。
「うん、ありがと」
俺がそう言うと、温人は二回、俺の頭をポンポンと撫でてくれた。その手がとても優しくて
「じゃ、帰ろ」
離れたとき、少しだけ寂しかった。
「うん」
立ち上がってからズボンを軽く払って、家に帰ろうと土手を上がっていると「あ」と温人が声を上げた。
「なに?」
「いや、かあちゃんから帰りにタナカでコロッケ買って来いってメッセ来てた。買ったら一香の家行くようにって」
「えっ!?」
俺も急いでスマホを見ると、おかんから『帰りに温人連れてきな。洋子ちゃんもうちでご飯食べるから。あとタナカでコロッケ。7時厳守』と来ていた。今は、6時48分──。
「急げ!」
言うと同時に俺は走り出した。タナカは7時に閉まる。すでに7時までには帰れないから、コロッケもなかったら、さらにおかんに怒られる。
「待ってよ、一香」
暗くなった歩道を、ゆっくりと柴犬の散歩するじいさんや会社帰りのサラリーマンにぶつからないように気をつけながら、俺達は走る。
「ほら一香、早く」
運動神経の悪い俺の方が先に走り出したが、早々に温人に追い抜かされ、すれ違いざまにつかまれた手を引っ張られている。
いいんだけど、ナチュラルに手を繋ぐのはやめてほしい。手を意識してしまって、走るのがもっと遅くなる。
でもそれ以上に、先に行って買っておいてほしくなっていった。温人のスピードで走るの、本当にしんどい。
タナカについたとき、俺は息切れしすぎて声も出せなかった。



