穢れた龍神と生贄の花嫁

 あまりに突然すぎて水夜はきょとんとしてしまう。水夜の表情に、美女は豪快に笑って言葉を続けた。

「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな、私は火の神だ」

 そう言ってにっこりと微笑む火の神の笑顔は眩しいほど美しい。水夜が思わず目を瞑ると、すぐ隣にいた翔澪はこの世の物とは思えないほど恐ろしい形相で美女を睨みつけ、水夜の手を握り締めている手を掴む。

「おい、貴様何を勝手に俺の花嫁に触れている。消すぞ」

 そう言って翔澪は火の神を水夜から強引に引き離し、水夜を腕の中に隠した。火の神はにやりと笑い、腰に手を当てる。

「おやおや、あの龍神がこんなにも一人の人間に入れ込むとはね。だが、気持ちはわかる。そう独り占めせずに私にも寄越せ」
「やらん!どうして神というものはどいつもこいつも強欲なのだ!水夜は俺の花嫁だ、誰にもやらん!」

 翔澪が怒鳴り声をあげると、風圧で火の神の髪の毛が舞い上がる。だが、火の神自身は揺らぐことなく笑みを浮かべたままだ。人間ならひとたまりもなく風圧でたおれてしまうだろうに、神様というのはなんとも頑丈なものだ。

(翔澪様、とても怒ってらっしゃるわ)

 もしかして焼きもちを妬いているのだろうか。そう思うと、水夜の心は嬉しさでいっぱいになる。他の神様に会うたびに翔澪の水夜への独占欲を目の当たりにし、水夜はこんなにも思われているのかと驚いて嬉しくなった。