喫茶 たゆたい探偵所


「ここでいいのかな?」幼稚園の前に車を停めた。


 あの当時のままだ……変わっていない。

 でもあの頃より狭いというか、小さく感じる。
 

「はい、ここです」懐かしさで胸がいっぱいになった。


「門が開いているね。ちょっと聞きに行こう」

 相良さんは来客用と書かれたスペースに車を停め、そそくさと正門を抜けていった。


「相良さん、ちょっと待って下さい。早いですよ」

 慌てて後をついて行った。


「すいませーん、どなたかいらっしゃいますか?」

 相良さんは臆せず、大声を出していた。


「はーい、ちょっと待って頂けますか」

 遠くから女性の声が聞こえた。


「『無駄足』にならなくてよかったね」

 相良さんは私を見てニヤニヤしている。


「ほんっとーに、しつこいですね! そんなことばかり言っているとモテないですよ!」


 人の話を無視しているのか、相良さんは周りを見ながら『へー』とか、『ふーん』と言っている。


「珍しいものがあるんですか?興味深そうですけど」


「ん? 僕、幼稚園に通ってなかったんだよね。だから新鮮で……」

 そう言いながら、周囲を見渡していた。


「そうなんですか……」なんと返せばいいか悩んでいると、廊下の奥から『トタッ、トタッ』と足音が聞こえてきた。


「お待たせしました」いかにも幼稚園の先生という、出で立ちの女性がやってきた。


『…っ、よしの先生!!』私はびっくりした。

 あれから11年ほど経っているが、あの頃の印象と変わらない。間違いなく、よしの先生だ。


「突然お邪魔してすいません」

 相良さんは丁寧に頭を下げ、「わたくし、相良と申します」と言いながら、名刺を渡した。


「ご丁寧にありがとうございます」そう言って、よしの先生は名刺を受け取り、それを注視していた。

「たゆたい探偵所……」

「なにか、この園に関することですか?」

 先生が困惑していた。


 あれ?私がもらった名刺と違う……

 なんでだろう…… 疑問に思ったが、聞けるタイミングではないので黙って成り行きを見ていた。


「関係あると言えばありますし、関係ないと言えばないのですが……」

「この子、ここの卒園生なんです」

 相良さんがニコニコしながら私の両肩に手をかけ、数歩押し出した。


 私は「えっ!?」となり、相良さんの顔を見たが、ニコニコしながら「ほら、ほらっ!」と、鋭いキラーパスを投げてきた。


「おっ、お久しぶり…です。よ、よしの先生」


 心の準備ができていなかったため、自己紹介より先生の名前を出してしまった。


「あら?私のことを知っているの?」

「ごめんなさいね。長年やっているとすぐ思い出せなくて」

 先生が申し訳なさそうな顔をしている。


「いえ、そう言うことじゃなくて……」


 それはそうだ。毎年何十人と園児を見送っている。

 私のことなんか覚えているわけがない。先生に気を使わせて申し訳ない気持ちがいっぱいになった。


「わっ、私は森下結依と言います……11年前に卒園…」


「!!!」

「ゆいちゃん!ゆいちゃんなの?!」

 先生がびっくりしていた。


「すぐに思い出せなくてごめんなさい。あのゆいちゃんがこんなに大きくなって……当時の面影が残っているわ」

 先生は口元を押さえ、感動している様子だった。


「わ、私のこと覚えているんですか…?」

 恐る恐る聞いてみた。


「もちろんよ。ゆいちゃんも、そして……みさきちゃんのことも……」

 そう言った途端、先生は涙目になっていた。


「みさきちゃん……」私は呟いた。


「今日はそのみさきちゃんの件で伺いました」

 便乗するように相良さんは会話に加わってきた。


「みさきちゃんの件……ですか…」

 先生の顔が困惑に変わった。


「よければ少しお話をしたいのですが、お時間を頂けるでしょうか?決して悪い話ではありませんので」

 相良さんは先生の顔色を伺いながら説明している。


 先生は少し考えたあと、
「……では、中にどうぞ」と言って、私たちを職員室に案内してくれた。


 幸い、園にいるのはよしの先生一人だったため、相良さんは今日伺った理由を説明した。


 先生は半信半疑の様子で相良さんの話を聞いていた。

 ただ、先生自身も当時の私の行動を知っているので、話を信じてもらうことに問題はなかった。


 しかし、私には今でも『みさきちゃんはいるのか?』ということが気がかりだった。


 先ほど砂場を見たが、みさきちゃんはいなかった。

 相良さんが言うには、相良さんも私も霊を呼び寄せる力はないらしい。

 しばらく様子を見て来ないようなら、日を改めて伺うということになった。


 ある程度の話がまとまったあと、よしの先生は思い出したように私がいた頃の話をして相良さんが笑い、私が怒り、先生が火に油を注ぐ……

 そんなことが繰り返され、終始和やか?な雰囲気だった。


 私は話をしている間もみさきちゃんが気になり、「ちょっと様子を見てきます」そう言って、砂場に向かった。

 メガネを外し、周りを見たがやはりみさきちゃんはいなかった。

 シャベルが視界に入り、昔を思い出して穴を掘ってみた。


「この感じ、懐かしいな……」

 11年ぶりの感触。今なら素敵なお城が作れるかな……



 そう思いながら、無心に穴を掘り続けた━━━━