幼少期から幽霊が視える私。
私には、生きている人間と霊の区別がつかない。
どちらも同じ解像度で視えるからだ。ただ、触ろうとするとすり抜けてしまう。
霊の言葉は直接脳に伝わるのだが、意識をしないと人間の口からの発声と変わらなく聞こえる。
幼稚園の頃は区別も理解もできなかった。
当時は何も知らず、霊と会話していた。
当然、周囲からみると『独り言』を言っている状態だったのだろう。
幼稚園では、『独り言』を言いながら砂場で遊んでいる私を先生が不思議がり、私に聞いてくる。
私は「みさきちゃんとあそんでいるんだよ」
「ねー、みさきちゃん!」と先生に言うと、その日に迎えにきた母と相談していたようだった。
先生と母から、「その子とは遊んではダメ」と言われ、砂場に行くことを禁止された。
従うことしかできなかった私は教室内から毎日砂場を見て、みさきちゃんを探していた。
数日後、先生に呼ばれて「みさきちゃんって、この子?」と写真を見せられた。
「うん!そうだよ。みさきちゃん」
私は写真を指差した。
すると先生は、「そ……そうなの……」と顔が強張った。
先生は少し考えたあと、
「あのときは怒ってごめんなさい」
「みさきちゃんと仲良くしてあげてね。ゆいちゃんのお母さんには先生から言っておくから」と言った。
「ほんとにいいのー?」
理由は分からないが、突然そんなことを言われた。
「うん!みさきちゃんとあそんでいるとたのしいんだよ。みさきちゃんのえがおって、かわいいの」
私は、みさきちゃんに負けないくらいの笑顔で答えた。
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卒園の日、みさきちゃんがいないことに気がついた。
「よしのせんせー、みさきちゃんは?みさきちゃんいないよ?」と先生に聞いた。
先生は「みさきちゃんは……まだ卒園できないの……もし良かったら、またみさきちゃんに会いに来てくれる?」
「いいの……? うん!また、ようちえんにきてみさきちゃんとあそぶよ!」
卒園しても、またみさきちゃんと遊べることを私は喜んでいた。
ふと、砂場を見た。
すると、みさきちゃんが寂しそうにしていた。
私は大きな声で、
「みさきちゃーん、またあそびにくるからねー!」
みさきちゃんに向かって、思いっきり手を振った。
気がついたみさきちゃんは、笑顔で手を振り返してくれた。
「うん!ゆいちゃん。またいっしょにおしろつくろーねー!」
みさきちゃんは、とても嬉しそうだった。
「よしのせんせー、みさきちゃんとやくそくしたよー。またいっしょにおしろつくろーって」
「結依ちゃん、ありがとう……」
先生は泣いているような顔をしていた。
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小学生になったある日のこと。
休み時間に廊下で友達と話していたとき、廊下の隅でうずくまっている子を見かけた。
気分が悪そうだったので、近寄って声をかけた。
「大丈夫? 保健室に行く?」
目線を合わせ、その子の様子をうかがっていると、「うっ……うぅ……」と声にならないうめき声を出していた。
私は早く保健室に連れて行かなくちゃと思い、周囲の生徒に声をかけた。
「この人、気分が悪そうです!」
「誰か、保健室に連れて行くので手伝って!」
すると、周りにいた生徒たちがざわめく。
「何言っているの?」
「えっ?なに、この人」
「えー、気持ち悪い……」色々な言葉を耳にした。
私は、なんで気にしないの?
こんなに気分悪そうにしているのに、見て見ぬふりをするなんて……
周囲の生徒にイライラしながら、その子に話しかけた。
「大丈夫、私だけででも連れていくから」
そう言って肩に触れたとき――
「えっ!?」と声を出した。
その子に触れたはずなのに、私の手に感触がない。
私の手はその子の身体を通過し、床に手がついた。
「なっ、なんで……」私はびっくりした。
その子は、何事もなかったかのようにうずくまっている。
何がなんだか全く分からなかった。
「なっ……なんで、すり抜けちゃうの……?」
私は恐る恐る、その子の身体を触ろうと手を動かす。やはり触れられない。背中がぞくっとした。
身体の中に手が入っているようにしか見えない。
「あ……あなたは誰?……なんで……」
その言葉を出すのが精一杯だった。
はっとして周囲を見渡すと、大勢の生徒が私を気味悪そうに見ていた。
「あ、あぁ……」と、声にならない声が出た。
私を見て友達とヒソヒソ話す人、気味悪がる人、ゲラゲラ笑う人……
「おい、病人がいるらしいぞ。誰か手伝ってやれよ」
知らない男子が笑いながら周囲に言っている。
さっきまで話していた私の友達は困惑しているようだった。
騒ぎを聞きつけた教室内の生徒も廊下に出てきて何事かと興味津々だ。
私自身、理解できずに怖くなって泣いてしまった。
周りで何か騒いでいる。
何を言っているんだろう。
自分の泣き声で聞き取れない……
「こらっ! なにやってんだ!」
先生の大声が聞こえた。
やじ馬の生徒はそれぞれの教室へ戻った。
「大丈夫か、森下。何があった?」
先生が心配そうに聞いてきた。
泣いている私には答えることができなかった。
「先生!こいつ、幽霊と話してましたー」
廊下に残っている男子生徒が、からかい気味に答える。
「なに訳がわからんことを言っているんだ!」
先生が怒鳴る。
「本当ですよ。なぁ」その生徒は、周囲にいる友達に同意を求めるように口にする。
「そうですよ、幽霊の具合が悪いから保健室に連れて行くって言ってましたぁ」
同調し、数人の生徒が笑っている。
「おまえら、いい加減にしろ!」
「森下、取りあえず保健室に行こう」
隅でうずくまっている子は、いまだに「うう……」と呻いている。
結局、私が保健室に行くことになってしまった。
それをきっかけにクラスはもちろん、同学年に『気味が悪い子』『幽霊と話す子』『あの子に意地悪すると呪われる』などと言われ、孤立した小学校生活を送ることになった――――
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中学に行っても、同じ小学校からの生徒が面白半分に私の話をしていた。
噂は広まり、私が廊下を通るたび、他のクラスの生徒からも「あ、あの子だよ」「悪口を言うだけでも呪われるって言われたよ」など、噂が絶えなかった。
当然、中学時代も『独り』で過ごすことになった。
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小中学校から離れた高校へ進学。
私のことを知らない人を求めた。しかし、いままでのコミュニケーション不足がたたり、やはり孤立気味になっていた。
高校では変な噂は立たなかったが、何より困ったのが『通学』だった。
この世に、霊がこんなにも多いとは思っていなかった。
通勤ラッシュで人とぶつかりそうになり、避けると周囲の人が変な目でみる。
その人を目で追うと、下を見たまま、まっすぐ歩き進み、人とぶつかることなくすり抜けて行くことが日常茶飯事だった。
電車の中でも同じ。
座っている人の前で、私がつり革に掴まっていたとき「この席に座ってもいいですか?」と、老人が聞いてきた。
私は「えっ?」と思い、目の前に座っている男性を見た。目の前では確かに男性がイスに座っている。
しかし老人は「ちょっとごめんね」と、私の前に来て男性と重なるように座った。
そういったことがあまりにも多く、周囲に気を使うことに疲れてきた。
私はラッシュ前の電車に乗ることにして、校門が開くまで近くの公園で時間を潰すことにした。
それが、『普通ではない私』の今までの経緯だ。
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ある日の朝、いつものように公園へ向かう道を歩いていると目の前の子供が道路に飛び出し、車と接触しそうだった。
私はとっさに走り出し、子供を助けようと手を伸ばして子供の手を掴んだ――――
『霊』だった。
手をすり抜け、その勢いで自分が車に轢かれそうになった。
「はぁ…はぁ……危なかった……」
心臓がバクバクしている。
すると、それを近くで見ていた男性がいた。
「君、面白いね。霊を助けようとするなんて」と、笑っている。
人を小馬鹿にしたような言葉にイラッとして、
「人間と間違えただけです!」
あたりの強い返答をした。
男性は「人間と区別つかないくらいに視えるの? 君、凄いね」と、しきりに感心している。
「もしかして、会話もできたりするの?」「いつから視えるようになったの?」など、一方的な質問攻め。
なんとも言えない感情で話を聞いていたが、失礼な男性に苛立って歩き始める。
私が人間と同じ解像度で視えることを確信した男性は、
「ちょっと待って、よかったらこれを使ってみて」と言って、メガネを差し出してきた。
霊が薄く視えるメガネらしい。
意味が分からない話にイライラが増幅し、話半分で去ろうとすると男性は名刺を差し出してきた。
【喫茶 たゆたい探偵所 [相良 優人]】
「しばらく使ってみて。いつでもいいから、ここに返しに来て感想を教えて欲しい」と言って、強引にメガネと名刺を渡してきた。
(喫茶店? 探偵所? 一体どっちなのよ?!)
疑問に思ったが、聞く気も起きなかった。
「その名刺を見せると、飲み物が無料になるからね」
男性は笑いながら去って行った。
なんなの、あの人!
私が事故に遭いそうだったのに、笑いながら去って行くとか訳わかんない……
「あー、もう最悪!」
今日の星座占いは一位だったはずなのに……


