人生は爆発とエナジー


十月上旬。文化祭の一日目の体育館のステージで行われるフリーステージで、瞳さんは何かを披露するらしい。詳しい内容は知らないけど、それに僕は付き合うことになった。
「次に何かを披露してくださるのは、鈴木瞳さんと西井悠河さんです。では、どーぞ!」
 瞳さんは、ステージの前に立って、僕は端に置かれているピアノに座る。
 ここからは彼女のステージだ。

「皆さんこんにちは。私は三年の瞳です。そして伴奏者の二年の悠河。彼のピアノの演奏と共に歌を歌いたいと思いますが、その前に私のちっぽけな話を聞いてくれると嬉しいです」
 観客に座る生徒たちは、盛り上げるように騒いで、その後は静かになった。
 私はここからだと。ちっぽけな勇気を。自分に奮い立たせて、そして始める。

「人生とは〇〇である。そんな問いがあったとして、ここに当てはめる言葉を入れるとしたら、あなたはそこに何を入れますか? うーん、私ならそうだなぁ――。普通に答えるのもつまんないからなぁ〜」
 と考える素振りをする。
 
「真面目に答えるんだから、笑わないでよ。……私なら人生とは、爆発とエナジーである。そう答えます」
 すると、生徒たちや先生たちは急に何を言い出すのかみたいな反応した。それはそうだろう。我ながらぶっ飛んでいるんだから。

「私は数か月前まで進路にとても馬鹿みたいに迷っていました。ここにいる生徒の皆さんも悩んでいる方が多いと思う」
 まあ、正確にいうと私は考えることを放棄していたのが正しいですけれども。それは言わない方がいいだろう。

「言っては良いことでは多分ないけど、最近やっと就職先が決まりました。一応、前もって言いますが、自慢したいから言っているわけじゃないです」
 と大事なことなんで言っておく。

「私はこう見えて、就職するぞって決める前まで、先生や家族たくさんの方に迷惑を掛けていました。
進路どうするって言葉がトラウマになるくらいにです。

 つまり何が言いたいのかというと、決められるっていうそのものが凄いってことです!
 すでに就職か進路にするのか大体決められている人には実感がないかもしれませんが誰だって簡単に決められないぞってこと。
 まだ、人生の答えを見つけられないのはおかしなことじゃない。見つからない=人生を真剣に考えていないことは同じではありません。

 その一方で、答えがないからといって、ずっと考えることから逃げていてよいのかというといけないことだと思う。

正解のない問いから答えを探すって難しいから。

 だからこそ、すぐに答えが出なくてもいいんだと思います。何度も悩んで、迷って、時には間違えて。それでも自分なりに考え続けることに意味があるんじゃないでしょうか。

 私はずっと、答えを出せない自分が嫌いでした。周りの人たちが次々と未来を決めていく中で、自分だけが取り残されているような気がして。何も決められない自分には、価値なんてないんじゃないかって。

 でも、今は少し変わるができて、考え方が変わりました。

 悩んでいる時間だって、自分の人生と向き合っている時間なのかもしれません。

 いつかは自分で決めて、一歩を踏み出さなきゃいけない日が来ると思います。

 それでも、焦って周りと同じ答えを出す必要はないんです。

 誰かが大学へ進学するから。誰かが就職するから。親や先生がそう言うから。

 そんな理由だけで、自分の人生を決めてしまうのは、なんだかもったいないと思いませんか。というかバカバカしい。

 だって、これから生きていくのは、ほかの誰でもない自分自身なんだから。自分のこと大嫌いでも、少しくらいは自分を大切にしないとやっていけないかも。
 
 私は、ようやく就職先が決またけど、これで人生の答えが見つかったわけではありません。むしろ、ここから新しい問いが始まるんだと思います。

 この仕事を選んでよかったのか。これから何をしたいのか。自分はどんな大人になりたいのか。

 きっと、これからもたくさん迷うでしょう。何度だって、自分の選択を疑うかもしれません。
 
 あまりにも、難解で難しい。逃げたいときは全力で逃げるだろうし。

 それでも私は、自分で考えて、自分で選んだ道を歩いていきたいです。

 だって、人生って、きっと一度きりだから。

 ……なんて、少し格好つけすぎましたね」このステージは黒歴史になるかも。

「でも、私は本気でそう思っています。

 だから、もし今、進路が決まらなくて苦しんでいる人がいたら、どうか自分のことを責めないでください。

 まだ答えが見つかっていないだけ。あなたの人生が、そこで止まってしまったわけじゃない。

 それに、今決めたことが一生変わらないともかぎらないし。人は変わるし、考え方だって変わる。昨日まで大切だったものが、明日には違って見えることだってあると思います。

 だったら、変わることを恐れなくてもいいんじゃないでしょうか。

 今の自分にできることを考えて、少しずつ進んでいけばいい。

 ……まあ、こんなことを言っている私も、つい最近まで進路から逃げ続けていた人間なんですけどね!

 だからこそ、伝えたいんです」勢いにあまって結局言ってしまう。

「悩んでいる自分も、迷っている自分も、どうか嫌いにならないでほしい。

 自分の人生なんだから、最後くらいは、自分の味方でいてあげてください。

 私は、そう思います」

 ……さて、最後だ。

「ここまで、私のちっぽけな話を聞いてくれてありがとうございました。

 最後に、もう一度だけ、最初の問いを皆さんに投げかけたいと思います。

「人生とは、〇〇である」

 文化祭のステージで、私はもう一度その問いを口にした。

 前の私なら、きっと笑ってごまかしていた。答えなんて分からない。分からないから、考えたくない。そうやって、ずっと逃げていた。

 今だって、本当は分からない。

 就職先は決まった。けれど、この選択が正しかったのかなんて、まだ誰にも分からない。

 それでも、私はマイクを握り直した。

「私にとって人生は、爆発とエナジーです」

 客席のどこかで、誰かが小さく笑った。

 いいよ。笑ってくれて。

 いつか私がこの答えを変えたくなったら、そのときはまた、新しい言葉を探せばいい。

 ピアノの前にいる悠河が、こちらを見て頷いた。

 私は息を吸い込む。

 正解かどうかは、まだ分からない。

 それでも今は、自分の声で歌ってみたいと思った。

『正解』と『拝啓 十五の君へ』という曲を。