五月下旬。あれから、悠河とは相変わらずな関係で、多少は仲良くなれたかもしれない。
そんな私は、放課後に担任の先生から呼び出しを食らった。
「瞳、進路について最近はどうだ。まだはっきりしないのか」
「……はい」
この会話も何回目だっけ。気まずい。早く終わってほしい。
担任の顔を見たくなくてうつむいた。
「今のところでいい。就職か進学かどっちの方が可能性がある?」
可能性か……わからない。最終的には選ばなきゃいけないのは分かっているけど考えたくない。
「…………」
何を言ったらいいのか思いつかなくて無言を貫く。
「そこもまだはっきりしていないのか」
話はさっき始まったばかりなのに、一向に長く感じる。
「就職予定者には六月に企業説明会へ行く予定になっている。どっちへ進んでいくのかまだ、決められないならとりあえず行ってみたらどうだ」
そんな予定があったんだ。どうするのか決めている人たちはそうやって先へ一歩前進している。私だけが取り残されてこんな人間いらないんじゃないか。
「……そうですね。とりあえず、行く方針で良いと思います」
なるようになれと、頷けばここから解放されるような気がして返事をした。
「わかった。それじゃあ、今日はもう帰っていいぞ」
「さよなら」
と挨拶してお開きになって安堵した。一気に疲れがやってくる。
なにもする気がわかない。家に帰るのやだな。もう、平穏に終わってほしいと願いながら家に帰った。
「ねえ、もうじき六月になるけど、いい加減決まった?」
「…………」
また、お母さんにそう聞かれたとき学校でも同じことがあったなって思った。
放課後の呼び出しと同じようにする。
「まだ答えられないの。これからどうやって生きていくつもりなの」
生きたいと望んで生まれてきてないのになんでそう言うのだろう。知らない、分からない。
「瞳、ちゃんと聞いてる」
――もう、やだ。
学校からも家からも責め立てられているみたいな感じがして嫌。一気にトラウマみたいな恐怖が襲い掛かってくる。
「……もう少しだけ、時間をください」
これがようやくなんとか絞り出して言えたものだった。
「わかったわ。だけど、覚えておきなさい。これが最後の機会ですからね」
そういうとお母さんは立ち去る。
その日の夜はあらゆることを深く考えすぎてよく眠れなかった。
次の日朝、歩き慣れた通学路の途中で急に足が踏みとどまってしまった。
正確には、足が地面に張り付くような感覚がして動けなかったのだ。
――どうして。
学校に行かなきゃいけないのに行けない。もし、この状況を見ている人がいたら変なふうに見えているだろう。
早く、早く、はやく行かなきゃ。
でも、体がゆうことを聞かない。
――ああ……そうか。私、学校に行きたくないんだ。
ストレスがあまりにも溜まりすぎて、問われる恐怖が根付いてしまったんだ。
自分は逃げ出したいんだ。前に似た感覚をした経験がそうだと教えてくれる。
――今日は学校なんて行かなくていいや。
そう腑に落ちると身体を動かすことが何故かできた。意味が分からない。
学校とは違う方面へ歩いた。次第にベンチを見つけ、そこに座る。
ポケットからスマホを取り出して、学校へ欠席の連絡をしようと電話番号を打ち始める。
私はなかなか休むことがなかったため、ネットで通っている学校を検索してホームページを見つけそこに書いてあったのだ。
こんなこと初めてだなと思いながら、番号を打ち終えて電話マークを押そうとする。
その指をよく見てみると震えていた。こんなことになったのも全部自分のせいなのに呆れてしまう。
意を決して押して、体調不良で欠席すると連絡をした。これで、親たちにバレることはないだろう。はぁーーと息を吐き出した。
これでよかったのだろうか。別に体調が悪いわけではないのに。嘘をついてしまった。
罪悪感が溢れ出す。私の過去の担任だった人からの評価は真面目だけど真面目じゃない。気を抜けそうなところはとことん抜くようにしている。と言われていて、実際にそうだったのに。私はどうやら、根は真面目らしい。
今日のこの後はどうしよう。当然、家に帰ろうとは思えない。どこかで時間を潰す必要があった。
私の欠席に日奈たちはきっと驚き、心配するだろうな。事前に、スマホで欠席のことを報告しようして、やめる。そんな気にとても慣れそうになかった。
悠河に連絡してもしなくても変わらないかな。学年が違うと基本的に接点はないし。
でも、なんとなく悠河だけになにかメッセージを送りたい衝動に駆られる。でも、なんていう言葉を送ればいいのだろう。
悩みに悩んで、トーク画面に『悠河は今日学校に行く?』と自分でも訳が分からない言葉を送信してしまった。
これでもう後には引けない。どんな返信するのか怖くなって、慌ててスマホをポケットにしまった。
さて、どこへいこう。行く当てなんてもちろんない。どこか、あるっけと思考を巡らす。
すると、公共で使える図書館が思い浮かんだ。自分の身だしなみを確認する。幸いにも、ジャージではなく私服だ。
一般の若い女性というカテゴリーに当てはまりそうだと思って、とりあえずそこを目指して歩く。不思議と足取りは軽かった。
――ブウッ、ブウッ。
登校中に珍しくズボンのポケットの中からスマホの振動を感じた。
急に何事なんだろうと僕は、スマホを取り出してみると瞳からメッセージが送られていた。
そこには、『悠河は今日学校に行く?』と書かれていた。
この文章の意味がなんなのか案の定さっぱりわからなかった。
瞳さんどうしたんだろう。朝にメッセージを送ってくるはなにか約束があったときのみだったから、とても珍しい。
誤字ったり、誰かに送る予定だったものを誤って僕に送ってしまったのだろうか。
とりあえず、その場で少し立ち止まって『学校に行きますよ。瞳さん、どうしましたか?』と打ち込んで送信した。
瞳さんも今のところ僕と同じで学校へ向かっているところだし、時間が経てばなにかメッセージを送ってくるだろう。
そう思い込んで、スマホをしまう。再び、学校へ僕は向かっていった。
でも、朝のアレ以降メッセージは一切送られてくることはこなかった。
誰か私のことを不審に思われてしまわないかビクビクしながら、公共で使える図書館でしばらくの時間を過ごしていた。
本を適当にとって読もうとするけども、まったく集中して読むことができなかった。
お腹が空いたときだけ、外のベンチでお弁当を食べた。本当は食べる気なんてなかったけど、食べずに家に持ち帰ると不審に思われてしまうから無理やり流し込むように。味が感じられないお弁当は初めてだった。
――私は本当になにをしているのだろう。こんなところでなにをしたい?
自分自身に問う。その答えとして思い浮かんでくるのは、私はきっと疲れてしまっているんだってこと。全然答えになんかなってない。
ひとりでいることは孤独なのだと、今日は身に染みて感じる。
図書館にある時計が十四時を回ると私はその場をあとにした。行く当てはない。でも、ここではない場所へ行きたかった。
歩いて、歩いた先にたどり着いた場所は、あの日にいた公園だった。
君にすがってしまった場所。忘れようとしても、決して忘れるこのできない記憶を無意識に頼ってしまったのかもしれない。
あの時座ったベンチに、同じように腰掛ける。
ここにいれば、彼――悠河が来てくれるんじゃないかって期待してしまう自分がいる気がする。
来るわけないのに。なにやっているだろう。
こんな私は大嫌いだ。でも、ここから立ち去ろうとは微塵も思わなくて、結局この場を動こうとはしなかった。
放課後になると、今日は図書当番のためは走って図書館へ向かった。
あの場所にいけば、瞳さんが現れるのではないかと思うのが一つの理由だった。彼女から連絡が一切ない。
一体どうしたのだろう。
図書館に着くと、カウンターの定位置につく。今日は本を読もうとはなぜか思えなくて、ただぼんやりとしていた。
それは多分、不思議と胸騒ぎがするせいだ。瞳さんが早くこないのかとウズウズしてしまう。
左側にある扉へ意識を向けていた。今か今かと、来るのを待ってしまう。
この図書館に需要がなく、ほとんど人がこないせいか余計にそわそわしてしまった。
ようやく扉が開く音と、誰かが入ってくる足音がして横を振り向く。だけど、そこに来たのは図書館の司書の先生だった。
思わず、落ち込んでしまう。今までこんなこと思ったことないのに明らかに自分が今までとはおかしな行動ばかりをしている。
瞳さんは本当に来るんだろうか。そんな疑問が浮かび上がってきた。待つのに我慢ができなくて、カウンターから出て、司書の先生に瞳さんのことを訪ねた。
「瞳さん? 今日は休みみたいよ」
その言葉を聞いて衝撃が走る。休み?じゃあ、あの朝のメッセージは休むという意味だったのか。と目から鱗が落ちる。
珍しいわよねと話す司書の先生の話は頭に入ってこない。瞳さんは大丈夫だろうかと思い始めると、あの日のことを思い浮かべてしまう。今にも消えてしまいそうな表情をしていた雨の日のことを。もしかしたら、朝のメッセージは彼女のなりのSOSだったかもしれない。そうすると合点がいく。なんで今まで気付かなかったんだ。定期テストより、難しく感じる。
――ああ……僕は馬鹿だ。
あの日のことを思い浮かべたせいか、自分自身の感が告げているからか居ても立っても居られなってしまった。
「あの、すみません。今日は帰ります」と司書の先生に頭を下げる。
僕の行動が予想外だったのか、びっくりした顔をして「いつもありがとね」となぜかお礼を言われる。多分、バカ真面目に当番をしてきたことへのお礼なんだろうなと思いながら図書館を後にした。
僕は自分が思っていたより、瞳さんのことを大切な存在だと思うようになっていたのかもしれない。
彼女はどこへいるのかと走りながら、電話してみるものの繋がることはなかった。
何回かかけ直して、諦めて彼女が行きそうなところを片っ端から探し始める。
ここら辺だとなにがあるだろうとまず思いついたのは公共の図書館。中をできる範囲のところまでしっかり探してもいなかった。
他にどこがあるんだろう。いくつか、手当たり次第に行ってみるも見つからなかった。
最終的に、でもどうせいないだろうとあの日いた場所へと向かう。あの場所以外にはもうほかに行く当てがない。僕が彼女を連れて行った公園へ。
こんなにがむじゃらになりながら走ったのは初めてのことだった。体の疲労を感じて、自分にもっと体力があったらとこんな時だからこそ普段運動してこなったことを悔やんでしまう。
公園に着いて、その敷地に入ると走るのをやめた。あの時、いた場所へ吸い寄せられるように歩いていく。
ここは非常に見晴らしのいいところで、坂道を登るように階段で上がっていく。
あの時、いた場所は確か雨宿りができそうな屋根があるベンチ。階段を全部登り切った後、あたり一面を見渡す。きっと、あそこだ。
屋根のあるベンチが目の前に見えてくると一人の女性がいるのがわかる。近づいていくにつれ、あれは瞳なんだと悟った。
やっと、みつけることができた。
そのことにほっとしてしまう。
こういう時、最初になんて言葉を掛けたらいいのだろう。いらぬことを考え始めてしまった矢先、彼女が僕の視線を感じ取ってしまったのか気づいた時には互いを見つめていた。
すぐ、そこに悠河がいる。嘘だと思った。
自分の妄想具現化してしまった幻なんかじゃないかと疑ってしまう。これは、現実なのだろうか。
それと同時に、気づいたら生徒が各々帰りだすような時間になっていたことに驚いた。今日の時間の感覚なんて消えていたから。
視界に映り込む彼の姿がいまだに信じられなかった。だって、朝以来、スマホなんて見てないし。ここにいるって当然知らせていなかったのだから。自分が自惚れているんだと錯覚してしまう。
声を掛けたら、魔法のように消えてしまうのではないかと思ってしまって見つめ返すしかできなかった。時が止まっていたんじゃないかと思うくらいに静寂に包まれる。
「……瞳」
やっと、声が聞こえたと思ったら彼に生まれて初めて呼び捨てされた。
そして、この声を私は聞きたかった。会いたかったんだと思えてくる。
弾かれるように咄嗟にベンチから立ち上がり、私も彼の名前を呼んだ。
「悠河っ……」
――私は、彼をとっくに好いてしまっていたんだ。
と気づく。あまりにも、今更かもしれない。
次の瞬間、何が起こったのか分からなくなった。
感じるのは、暖かな温もりと聞こえてくる高鳴りだった。僅かな時間差で彼に抱きしめられえていることに気が付いた。
これはまるで、あの日と真逆じゃないかと思った。あの日の記憶が鮮明に思い浮かぶ。
*
あれは確か冬の十二月中旬あたりだったと思う。
休日で雨の降る日だった。
その日はあいにくお母さんの仕事がなくお休みで、今と同じように進路について責められていた。
高校で三者面談をやり終えた後だったせいもあって、母の怒りはより高まっていたと思う。
「将来どういうつもり。答えなさい」
「…………」
言わなければ、そのうち諦めてくれるんじゃないかと心のどこかで思っていて、このときも黙ることを貫いていた。
「昔は、純粋になんでもすぐ答えてくれたじゃない。いつからこうなってしまったのだか」
と訳の分からないことを言う。
そんなことは逆に私の方が聞きたかった。純粋から今のようにひねくれてしまったのは、あなたの影響が恐らく多いから。子供は敏感に感じて、周りから日々影響を受けることをきっと知らないんだ。
私は、お母さんのような性格になりたくないとまねることを拒んだ。それでも、多少は影響を受けてしまっている部分もきっとある。
「なんとか言いなさいよ」
お母さんの苛立ちはヒートアップした。何を言ったら満足するのかわからない。
お父さんはお母さんのように、責めるように聞いてくることはなかったのに。瞳のペースで良いと言ってくれていたのを知らないの。と心の中で反抗する言葉があふれてくる。
「もう、意味が分からない。あなたなんてね、元々は生まれるはずじゃなかったのよ。それなのに勝手に生まれてきやがって」
投げ捨てるようにいうと呆れた表情でどこかへ行った。
最後のセリフは今が初めてではなく、なんかいか言われたことがあった。
いつもならへちゃらだったのに、限界が来てしまったせいなのか心にナイフのようなものが刺さってしまったような衝撃があった。
言葉には力がある。救える力があるのなら、反対に傷つける力だって。状況によって諸刃の剣で、紙一重、みたいだ。そのことを身に染みた瞬間だった。
私はその後どうしたのかよく覚えていない。なんとなく外へ出たくなって傘なんて差そうなんて思えないほどに余裕がなかった。
雨に濡れることなんで、どうでもよかったのかもしれない。
行く当てなんてなく。ただ、彷徨い続けて途方に暮れる。
そんな最中に彼が話しかけてきた。
「大丈夫ですか。多分、同じ学校の先輩ですよね。何度か見かけたことがあって」
と傘を私の方へかざしてくれたのだ。
なんて親切なんだろうとのんきに心の中で思ってたと思う。
「風邪ひいちゃっていなかったりしませんか」
「…………」
いくら声を掛けてくれても、喋る力も当時はなく、とにかく無言だった。
おそらく、ずぶ濡れで無言だったことにより何かあったのではないかと察したのか、はたまた異質に思ったのか、「今、とても寒いでしょう。とりあえずついて来てくれませんか」と誘われ流れるようにそのまま私はついて行った。
知らない人にはついていないようにって幼い頃教わったけど、今思えば彼のことも委員会で見たことがあった気がして良いかと思ってしまったんだと思う。
あったかいカイロを彼から持たされて次第についたのがあの公園だった。
雨だったため、人は誰一人おらず、誰にも見られないように彼なりに配慮してくれたように感じた。
雨宿りができる屋根の中にベンチに着いて一息ついた頃、無意識に彼に言葉を告げた。
「私のことを抱きしめてくれませんか。それ以外のは求めないので」
と彼にお願いをしたのだ。今思えば、なんて大胆な行動をしたんだろうって思う。
当然、彼は躊躇していた。
――だったら、私からしちゃえばいいや
と勢いで彼を抱きしめてしまったのだ。冷たい氷のような私を溶かすように、温めてくれるような感覚がとても心地よかった。このとき彼の名前すら知らなかったけど、私のことを黙って受け入れた。
ずっと、ずっと息苦しさが続いていたのに、このときだけは人が与えてくれるぬくもりが癒しのようなものだった。
*
そして、今もあの時と同じような状態になっている。
彼の腕の中は居心地の良い。もしかしたら、あの時彷徨ってしまったのは誰かから与えられるぬくもりを欲したがための行動だったかもしれない。
少なからず、愛に飢えていた。欲求を満たしたい気持ちがあった。
本来なら、親に甘えたかった場面なのかもしれない。でも、こんな私なら家庭環境が良くても悪くても家族に甘えようなんて考えつかなかっただろう。だって、成長するにつれ甘えることに、さらには抱きしめてほしいなんて到底気恥ずかしさが勝って自らお願いなんてできないから。
できそうにはないと、諦めていたことを私は彼に向けてやってしまったんだ。
もうどのくらい、長いこと抱きしめられた状態でいるんだろう。安心感があると同時に、だんだん恥ずかしくなってきた。
「……悠河、そろそろ放してくれると助かる」
「あっ、ごめん。勢いでこんな」
とあたふたと慌てたような悠河が面白くて、「ふっ、ふっ」と笑みがこぼれる。
そんな私を見て、悠河は今まで見たことがないくらいに優しいふんわりとした笑顔を見せる。そこには安堵のような気持ちも混ざっているような気がした。
「えっとまず、私を見つけてくれてありがとう。……大変だったでしょ」
「それは、もう大変だったけど、見つけられてよかったよ。本当に」
彼に沢山迷惑を掛けて申し訳ない気持ちがあふれ出す。
「ねえ、悠河。私のしょうもない話を聞いてくれない」
「うん、もちろん」
私が真剣な表情で伝えると、彼も改まった顔をして頷いた。
それから、まず私の家庭内環境についてと現在進行形で進路について悩んでいることを伝えた。
悠河は特に責めたり否定するような行動はせず、静かに聞いてくれる。
「未来どうしたらいいんだろう。悠河はこれからのこと決まってる?」
「うん。目指したいことがあって、大学に行こうと思っているよ」
淡々と言う彼の姿を見てさすがだと思った。
「すごいね。ちゃんと決められる人たちって」
空を見ながら、私は同じようにはなれそうにないと思った。
「……瞳はさ、未来について考えたくないって言ってくれたじゃん。それには、理由とかあるの」
「えっ、それはもちろん」
今まで誰も聞いてくれなかったことで、ちょっとびっくりした。
「ずっと疑問があったの」
「疑問?」
「そう。学校ってさ、答えが必ずあるような問いばかり解かされて、気がついたら進学か就職へ急に決めろって責められるのっておかしいなってずっと思っていて」
「うん。それは言われてみれば確かに」
こんな疑問を喋るのは初めてで、思い続けたことを相手に分かりやすく言語化するの難しいと思いながら、頭の中で整理しながら伝える。
「正解のない問いに向かって自ら考えて、答えを見つけようとするって事はあまりしたことなかったから。その……不安になるっていうかわからないじゃん」
私は一体なにを言いたいんだろう。
「だから、なんていうか……無責任で、私は気に食わなかったんだ」
教育方針ががむしゃらみたいで。
どうせなら、自分なりの答えを探せるような人になるための土台を作れればいいのに。
「って、進路とは全く関係ないことだね。……私ってやっぱり馬鹿だな」
私は鳥かごの中の鳥のように縛られることが嫌だった。縛られてしまうくらいなら、最後まで抗っていたいという気持ちがいつからか芽生えてしまった。そのせいで変なことを深く考えてしまっていたんだ。
「いや、瞳はそういう考えを持つこと自体すごいことだと僕は思うよ。だって、なかなかいないと思うし」
結局は、誰よりも真面目だったが故にみたいなところかなと自分に落胆する。つまり、ぶっとんだ思考の持ち主ってこと。いや、なんか違う。
頑なな考えがあったらから未来について考えることを受け付けなかった。
「自分の考えに固執して、進路考えなかったの馬鹿でしょ。さすがに……うぅ」
なんか久しぶりに涙が突然溢れてきた。
やっぱり私はガキ。子供だな。見た目が大人になっても、きっとずっとこれからも中身は子供のままだ。
「悠河……最後まで。なんか、ありがとう」
「いや、僕は何もしてないよ。瞳自身が、自分で気づけたってことじゃんか」
それは君が話し相手として聞いてくれたからだよ。と心の中で言葉を返す。
「瞳のことだから、もっと色々なことについて疑問を持ってそうだね」
「多分……そうかもしれない」
自分のことは、自分が一番分かっているもんだとどこかで聞いたことあったけど。実際は違った。
誰かに言われなきゃ気づけられない生き物だ。
「今更すぎるけど、ちゃんとこれからのこと考えてみる」
過去に何回か死にたいって暗い霧の中に埋もれていたけど、それでもなんだか生きたくなってしまった。私は単純だな。
「うん、応援してる。先輩」
「そこは、名前で呼んでよ」
ふたりで笑い合った。
「あっ、いいこと思いついた」
「ねえ、悠河付き合って」
急に名案が浮かんだのだ。
不思議な顔をする彼に向っていたずらっぽい表情で笑ってみせて。



