人生は爆発とエナジー

 
 四月は終わり、ゴールデンウイークに入ったある日の私は彼を待っていた。
 待ち合わせの駅前で、決めた時間よりも早く着きすぎてしまったのだ。今日は、まだ梅雨にはなってないのに夏のように暑い。
 晴れた青空を見て、雨じゃなくてよかったと思っていると悠河の姿が見えてこっちへ向かってくる。
「瞳さん、遅くなってごめん。おはよう」
「悠河、おはよう。全然、時間通りだから大丈夫だよ。」
 と腕時計で時間を確認しながら言った。
「私、先に切符買ったから、悠河も買っておいで」
「わかった」
 自動券売機があるところへ向かう彼の姿を見て、私服姿は新鮮で見慣れないなと思った。服装は自由な高校だったけど、体育があるせいなのか生徒のジャージ姿が圧倒的に多かったのだ。
 切符を買い終わって戻ってくる姿を見て、白色の半袖に黒い色のジーンズとシンプルな服装だけど似合っているなって思う。
 私から誘ったくせに今更だけど男性とどこかへ出かけるの初めてでちょっと緊張してきた。
「もうそろそろ電車来るみたいだから、線路の方にいこうか」
「うん、そうだね」
 彼の後ろをついていく。
 電車に一緒に乗り込むと、座れる席はなくて扉の前で手すりに摑まって立つことにした。
 なにか会話をした方がいいのかと話題を考える。でも、全然思いつかなかった。
『あの日のこと誰にも話してない?』とまた聞こうかと思って口を開いて、でもやめた。お出かけする日でさえ、こんな質問をするのもおかしい気がしたのだ。というか、もう聞くのはやめた方がいいかもしれない。自分だけが気にしすぎているみたいでなんかやだ。
 今までの自分の行動を思い返すとそう感じてしまう。それでもなと思う自分もいて、自分って意外と面倒くさい人間かもしれない。
 ああ、もう。今日一日彼と過ごせば、どういう人間かわかるかもしれない。だから、それでどうすると判断しよう。
 よし、意気込んで目の前をみると彼の顔が窓の方を向いていた。私も同じ方を向くと綺麗な景色が広がる。
「わあ――みどり!」
 一面に広がる田舎の風景。風に吹かれて揺れる草花や木々、奥の方に見える山々が一番多く目に映った色が緑だった。
「ぷっ、そこで出てくる言葉は綺麗じゃないんだ」
「へっ? いや、緑が多いなって思ってさ。もちろん、この光景を綺麗だと思ってるよ」
 悠河がまさか突っ込みを入れると思っていなくてびっくりする。というより、悠河が笑ってる? くすりと笑う姿を初めて見た。思わずガン見する。
「あの……ずっと笑わないでもらえます」
「ごめん。『みどり!』なんて言う人初めてだったから」
 思たままにできて言葉そんなにおかしかったのかな。そういえば、友達からにもよく『そういうの初めてだった』と言われることが多かったような。これって、黒歴史になったりするのかな。いや、多分ならない。
 彼が笑ってしまうということは、リラックスをした状態でいてくれている証拠だからよしとしよう。気づかぬうちに私も緊張がほぐれていた。
 そんなこんなで、降りる駅についてそこから目的の場所まで歩いていく。
 目的地はなんと本屋さん。いつも行っているところより一回り大きい行ったことがなかった場所。私と悠河の共通で好きなのが読書だったので本屋さんに行ってみようとなったのだ。
「初めて来たけど、中が広いね」
「ね。ずっとこの場所で暮らしたい」
 普段読んでいるジャンル、好きな作家は誰なのか話しながら一緒に回る。
「あっ、どこにも売ってないやって諦めてた本あった」
「よかったね」
「うん。買うのはもうこれくらいでいいかな」
 彼もどうなのか確認して、これでここにいるのは終わりかなって思い始めるとある場所を急に思い浮かんだ。見るだけでもいいから行きたい場所あると伝えて一緒に向かう。
「小学生の頃、読んでいた作品だ。懐かしい」
「本屋にあったんだ」
 そこは小学生向けの児童書籍が売っている場所。普段は買う目的の作品が置いてあるところしかいかないから立ち並ぶものが新鮮だった。本を読むきっかけはこれだったんだよなって色々思い出す。
「悠河の本の好きなところって何」
 急に浮かんだ疑問を聞いてみる。
「僕は、そうだな……夢中になれるところかな」
「いいね。私は、言葉には力があるんだなって感じれるところかな。感動したりとか、読むことで気づきとか発見できる。本以外にも曲とか創作物は偉大だなって思うんだよね」
「確かにそうだな」
 と悠河は改まった表情で頷いた。あちこち見て回って、ふと時間を確認するとこの本屋に二時間近くもいることに気がついた。あまりこんなに居たことがないし、夢中になると時間はあっけなく過ぎていくものだと感じた。お腹も段々空いてきたので本屋を出るとカフェへ向かう。
「ここのパンケーキ食べてみたかったんだ」
「人意外と並んでいるみたいだな」
 私たちもその中へ溶け込むように後ろへ並んだ。
「今更、だけど悠河って甘い食べ物大丈夫?」
「それなりに大丈夫」
 それなりってどのくらいと、はてなが浮かぶ。悠河ってミステリアスな感じがしてたんだけど天然なところもあるのかな。意外な発見だ。色々質問してみようと待っている時間は質問を互いにし合うことにした。
「誕生日っていつなの」
「四月の二十二日」
 ということは、先月だったってこと。えっ、最近じゃん。
「じゃあ、今は悠河と期間限定で十七歳。同い年だね」
「えっ、それってどういう……」
「私、三月七日が誕生日なんだよ。十八になるのは卒業式を終えて数日後なんだよね」
 言ってみると、少し前まで彼に先輩って呼ばれていた頃に違和感を覚える。年齢的に一緒なのにって。
「瞳さんと期間限定で同い年って、不思議な感じがしますね」
「ね、変な感じ」
 と笑い合っていると待ち時間なんて一瞬だった。もう、あの日のことを誰かに言ってないかなんて問うのをやめよう。

「パンケーキ超うまい。もう思い残すことないかも」
 これは、僕らがランチを楽しんだ後にデザートで頼んだものを一口食べた彼女の反応だった。
 最後に言った言葉に、僕は過剰に反応して目を疑ってしまう。その言葉を彼女はどんな気持ちでそう言っているのか疑問が浮かんだせいで。――正直、冗談に聞こえなかった。
 今回の彼女は学校では見せない表情を沢山していて、まさに生き生きとしているという言葉が似合っていた。
「今までで一番おいしい?」
「うん、そうかもしれない」
 幸せそうに噛みしめるように本当に美味しそうに食べているなと思った。
 僕が頼んだものも食べてみよう。
「うまい」
「でしょう!」
 今、僕の目に映る瞳さんの無邪気な笑顔は、あの日とは表情が正反対だ。
 こうして関わるようになったきっかけは幻だったんだって信じてしまいそうになる。彼女の裏側に一体何を抱えているんだろう。
 聞いてしまえば、きっとまた暗い表情をしてしまうだろう。彼女が言いたくなるまで、僕は近くで見守っていようと思った。