花那は暗闇の中にいた。
自分の名を呼ぶ豪の声を思い出し、花那は先程起こったことを思い出した。
翔也によって禍牛にされたこと、そして豪を襲ったこと、彼を守るために自ら命を絶ったことを。
(そうか、私は死んだのね)
ここが死後の世界か。
禍牛になった自分は散りになって消えると思っていただけに少し意外だった。
同時に、自らを異能の力で消し去れたことに対する安堵もあった。
これでもう花那のせいで豪が命を落とすことはない。
ただどこに行けばいいのか分からず、花那はぼんやりと虚空とも思える闇を見つめた。
すると、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。
「大嶽丸、いる?」
その声は花那の良く知る声だった。
花那はその声に引き寄せられるように声の方へ歩き出した。
すると、小鳥の囀りがして、花那の頬を柔らかい風が撫でた。
木々のざわめきが聞こえ、気づけば花那の周囲の景色が森へと変わった。
(ここは?)
暗闇から突然森の中に迷い込んだことに戸惑っていると、先程の女性の声が再び聞えてきた。
「大嶽丸、探したわ!」
目を輝かせてこちらに走って来るのは、花那そっくりの女性だった。
白い着物に緋袴をはいた少女の手には、籠いっぱいに野菜と握り飯が入っている。
その少女の顔を見た花那は、驚きの余り目を見開き、小さく声を上げてしまった。
(あれは、私?)
少女の顔は花那に瓜二つだった。
花那が驚いていると薄水色に近い白銀の髪を靡かせながら、少女が花那の前を通り過ぎて行った。
まるで花那の事など見えていないかのように。
少女の姿を追って振り返ると、もう一人見知った男性が微笑みながら立っていた。
「大嶽丸、ここにいたの?」
「あぁ、咲耶」
大嶽丸と呼ばれた男性は豪そっくりで、そのことにも驚いて二人を凝視してしまった。
ただ、豪の姿はいつもの軍服姿ではなく、直垂に裾絞りの袴姿だった。
その格好から一目でここが大正時代ではないことが分かった。
確か平安時代の男性の服装だったと記憶している。
花那は二人に声を掛けようとしたが、声を発することができなかった。そして二人にも花那が見えていないようだった。
どういうことなのか。
戸惑っている間に、二人が仲睦まじく肩を寄せ合って歩き出した。
「ほら、今日の供物よ。今年も豊作だって村の皆が喜んでたわ。鬼神様によろしくって」
「それは良かった。だが、こんなに貰っては申し訳ないな」
豪――いや、大嶽丸はそう言いながら咲耶の持つ籠を受け取ると、空いている右手で咲耶の手を取り、指を絡めて歩いた。
どうやら二人は恋人同士のようだった。
花那が知る大嶽丸は鬼であり、異形の姿をしていると思っていただけに、豪そっくりの男性が大嶽丸だと知って少しばかり驚いた。
「皆感謝しているのよ。貴方がいるお陰で変な妖が村を襲うこともないし、貴方が雷を呼んでくれるから、稲が育つから」
「この力が役に立つなら良かったよ」
確か伝承によると、大嶽丸は雷を操った。
それゆえ、鬼の力を封じ込めた日本刀も雷を操る力を持つ。
恐らくだが、雷の力は稲の生育を良くし、豊穣をもたらすため村人から厚く信仰され、鬼神として崇められていたのだろう。
山道をゆっくりと歩く二人は、時折足を止めて野の花を見たり、他愛のない話をしていた。
やがて辿り着いたのは森の奥にある社だった。
その社の縁側に座っている少年を見て、花那はまたも声を上げそうになった。
(速日?)
速日は花那の知る姿と全く同じだった。
あどけない少年の姿だが、幾星霜の時を重ねてきたような空気を纏い、淡い水色の狩衣姿は花那の良く知る速日だった。
咲耶は速日の姿を認めると手を振りながら声を掛けた。
「まぁ、速日来ていたの? さっき龍雲が出ていたからそろそろ来るのかと思っていたのだけど」
「咲耶、大嶽丸久しぶりだな。元々近いうちに顔を出そうと思っていたんだけど、ちょっと頼みごとがあって寄ったんだ」
「頼みごと?」
咲耶が首を傾げると、速日が社の中に招くと、そこに一人の青年が横たわっていた。
どこかの貴族だろうか?
萌黄色の狩衣には金の刺繍がしており、布地も上等なものだ。
傍らに弓と弓掛が置いてあるところを見ると、狩りの途中なのかもしれない。
「この方は?」
咲耶がそう尋ねると速日は首を振って答えた。
「分からない。ただ、川岸で気を失っているところを助けたんだ」
話を聞くと速日がここに来る途中、倒れている青年を見つけたらしい。水を司る龍神である速日は、それを見てみるふりができずに助けたのだという。
「というわけで、少しばかり介抱してやってくれないか?」
「分かったわ」
「頼んだ。ちょっと山向うの村に雨を降らせなくちゃならないから俺は行くな。来月には祝言だろう? その時にはまた顔を出す」
祝言という言葉を聞いた大嶽丸と咲耶は、一瞬互いの顔を見合ってから、薄っすらと顔を赤らめてはにかんだ笑顔を速日に見せた。
「わざわざ来てくれるの? ありがとう」
「龍神の血を持つ巫女と鬼神の婚姻だ。この村を守護する者同士の祝言に、龍神として顔を出すのは当然だろ?」
そう言って社の外へと歩き出した速日は、ふと気づいたように足を止めると、咲耶と大嶽丸を振り返った。
「そうだ、お前たちの耳に入れておくけど、実は都からこの辺一体の妖を討伐するための軍が来ている。中には大嶽丸のような村を守護する妖も討伐されている。奴らには龍神だろうと鬼神だろうと関係なく、人外の物全てを亡ぼすつもりだ。気をつけろよ」
その言葉に大嶽丸は厳しい表情を浮かべると、しっかりと頷いた。
「あぁ、分かった」
「じゃあ、次は祝言の時にな」
速日は小さく手を振った後、階段から飛び上がり、姿を消した。
そして空が茜色に染まる頃になって、青年がゆっくりと目を覚ました。
「お目覚めになりました?」
ぼんやりとした面持ちの青年に、咲耶は穏やかな声で声を掛けた。
「ここは? 私はどうしてここに?」
「滝根村です。知り合いが川で気を失っている貴方を見つけてここに運んだんです」
「そうか、狩の途中で道を踏み外して川に落ちてしまったんだ。助けてくれて感謝するよ」
どうやら記憶がはっきりしたらしい青年がそう言って咲耶と大嶽丸に小さく頭を下げた。
「俺は清野と言うんだ。君たちの名を聞いても良いかな?」
「私は咲耶です。こっちは大嶽丸」
咲耶がそう言うと清野が驚いたような表情を浮かべると、一瞬だけ思案顔になった。
「どうしましたか?」
「いや、なんでもないよ」
それは余りにも一瞬の事で、大嶽丸も咲耶も特に不信には思わなかった。
大嶽丸は社の外に目をやり、既に夜の帳が下りているのを見ると清野に提案した。
「今日はもう遅い。何もないがここで一晩泊っていくといい」
「それはありがたい」
「じゃあお夕飯でも食べませんか? おにぎりもありますし、お酒の用意もありますよ」
沙耶はそう言うと、持ってきた籠を見せた。
「ならお言葉に甘えさせてもらうよ」
これが清野との出会いだった。
咲耶と大嶽丸にもてなされた清野は、礼として暫く村で畑仕事を手伝いたいといい、清野は大嶽丸の社に身を寄せることになった。
大嶽丸と清野は寝食を共にし、酒を酌み交わして語り合い、猟に出かけたりと親交を深め、気づけば二人は古くからの友のようになっていた。
その夜も大嶽丸と清野は酒を飲み、沙耶は手料理を振る舞いつつ時折二人の酌をしていた。
盃の酒を呷った清野は、盃を見つめながらしみじみと言った。
「俺は妖なんて人に害をなすものばかりだと思ってたけど、大嶽丸は違うな。君が守護しているからここの村人達は安心して暮らしていけるんだな」
「俺は大したことはしてないさ」
「謙遜するなよ。君が周囲の妖を追い払ってくれなければ、この村人達はこんなに平和で豊かに暮らしてはいけないと思う。その供物がその証拠だと思うよ」
そう言って清野は今日食べきれずに置いておいた干し魚や収穫した野菜、そして酒に目を留めてそう言った。
清野は盃の酒をグイと飲み干すと、大嶽丸に視線を移した。
「実はそろそろ父上が心配しているから帰ることにする」
「そうなのか? それは寂しくなるな」
「君たちの祝言を見れないのは残念だけど。二人の幸せを祈っているよ」
「ありがとう」
「じゃあ早いけど、二人の門出を祝って乾杯しよう。……乾杯」
清野はそう言うと再び酒を一気に呷り、大嶽丸もそれに続いて酒を飲み干した。
清野と過ごす夜は更けていき、清野との別れの日を迎えた。
「大嶽丸、咲耶、色々とありがとう。君達に会えてよかった。この恩は忘れない」
「あぁ、気を付けて帰れよ」
清野はその姿が見えなくなるまで手を振りながら、こうして村を去っていった。
※
清野が去ってから1週間余りが過ぎたある日のこと。
咲耶はいつものように大量の供物を持って大嶽丸の元へと向かっていた。
その時だった。
遠くから村人の一人が血相を駆けて駆けてきた。
「咲耶、大変だ! 都からの軍がこの村に攻めて来た! 早く逃げろ」
「え?」
耳を澄ますと遠くから激しい蹄の音と、村人たちの叫び声が聞こえてきた。
村人の言葉を聞いた時、咲耶は先日速日に言われたことを思い出した。
『実は都からこの辺一体の妖を討伐するための軍が来ている。中には大嶽丸のような村を守護する妖も討伐されている。気をつけろよ』
その言葉を思い出した咲耶は、弾けるように社へと走り出した。
背後で村人が花那を呼び止める声がしたが、それすら聞こえずに一心不乱で大嶽丸の元に向かう。
幸いにして、社は森の奥地にあり、兵士達に見つかるまで時間がある。
咲耶はもつれそうになる足を極限まで動かし、大嶽丸の元に走った。
「大嶽丸!!」
咲耶が社に着くと、大嶽丸が社の奥から姿を見せた。
しかし、咲耶の乱れた髪と息切れした様子からただならないものを察したようだ。
一気に厳しい顔になると、花那に尋ねた。
「咲耶、どうしたんだ? 何があった?」
「逃げて! 都から軍が!」
全てを説明している時間はなかった。
咲耶が大嶽丸に必死に訴えようとした時だった。
森の奥から甲冑の音と足音が聞えてきた。
「話だと大嶽丸のねぐらはこの辺だ! 探せ!」
野太い声が聞こえたかと思うと、間髪を容れずに木々の間から兵が現われた。
「ここだ! ここにいたぞ!」
「かかれ!」
二人を取り囲む兵達の目には、ありありとした殺意が浮かんでいる。
咲耶や大嶽丸が声を発する間もなかった。
突然兵が雪崩の如くに襲い掛かって来たのだ。
大嶽丸が反射的に咲耶の肩を抱いて自らの胸に寄せると、そこに放たれた矢が社の壁に突き刺さった。
それを合図とばかりに、幾人もの兵士達が一斉に矢を放った。
「雷よ!」
矢を避けきれないと瞬時に悟った大嶽丸がそう叫びながら手を振り下ろすと轟音が鳴り響き、その刹那、稲妻が兵士達の頭を直撃した。
「今だ、行くぞ」
大嶽丸は咲耶の手を引くと、倒れた兵士達の間を縫って走り出した。
兵士たちが怒声を上げながら大嶽丸と沙耶を追いかけ、ヒュンヒュンといった風切り音と共に、雨のように矢が降ってくる。
「燃えろ!」
大嶽丸がそう叫ぶと、その声に呼応したように空から火が現われ、その矢を燃やした。
この山を越えれば隠れ家の洞窟がある。
咲耶と大嶽丸はそこを目指して必死に逃げた。
だが、そんな二人の行く手を阻んだのは一人の青年だった。
「此処から先にはいかせられない」
「どうして……清野、お前がここに……」
そこに立っていたのは清野だった。
突然現れた知人を前に、足を止めたその瞬間だった。
鈍い音がしたと同時に、咲耶が小さく呻いてその場に倒れた。
「っ!」
「咲耶!?」
大嶽丸が慌てて咲耶を見ると、彼女の肩には深々と矢が突き刺さっていた。
刺さった矢の周囲から血が溢れ、咲耶のまっ白な着物を赤く染めていく。
「咲耶! しっかりしろ!」
大嶽丸は慌てて咲耶を抱き上げて肩を揺すると、咲耶は小さく呻きながら薄っすらと目を開けた。
「大嶽丸……逃げて……」
そんなか細い咲耶の言葉を、凛として低い男の声がかき消した。
「動くな! 動けばその女を射る」
声の方を振り向くと、そこには白い馬に跨り、武者姿をした男の姿があった。
その風格から都から襲って来た軍の大将、すなわち坂上田村麻呂だとすぐに分かった。
男の言葉を合図とばかりに、弓兵の矢が咲耶に狙いを定めた。
「清野からそこの女がお前の許嫁であることは聞いている。そしてお前の力もな。少しでもおかしな真似をすれば矢が女を射抜くだろう」
その言葉で大嶽丸は全てを理解した。
全ては清野の計画だったのだ。
大嶽丸の身辺を探り、居場所を特定し、軍に伝えるためという計画――
「……お前はこいつの間者だったんだな」
大嶽丸は悔し気に顔を歪めながら、清野を睨んだ。
気づけば大嶽丸の周囲を兵士達が取り囲み、槍を向けている。
その奥には弓隊の姿も見え、もう逃げられないのは明白だった。
「狙いは俺だろう? 沙耶だけは助けてくれ」
「……分かった。征夷大将軍の名に懸けて、その約定を守るとしよう」
「大嶽丸……駄目……」
大嶽丸はゆっくりと咲耶を横たえると、額に柔らかく口付けを落とした。
そして全ての愛を伝えるような眼差しを向け、咲耶の頬をそっと撫でながら耳元で囁いた。
「咲耶、幸せになってくれ」
咲耶は大嶽丸を引き留めようと手を伸ばすが、それが届くことはなかった。
大嶽丸は田村麻呂に向き直ると、数歩前に出て膝を着いた。
そして二人の兵士が進み出て、一人は大嶽丸の腕を後ろに束ね、もう一人が刀を振り上げた。
ざしゅりという肉の切れる音が響き、同時に大嶽丸の体が力なく倒れる。
「嫌! 大嶽丸!」
咲耶は痛みを堪えつつ、重い体を引き摺りながら大嶽丸へと一歩一歩と近づく。
そして彼の躯にしがみついて慟哭した。
「大嶽丸目を開けて! お願い!」
だが大嶽丸は咲耶の叫びに答えることはなかった。
それを見た清野が慌てた声で田村麻呂に詰め寄った。
「父上、話が違います! 大嶽丸は捕縛するだけだと仰ったじゃないですか!」
「お前は甘いな。私は帝の命を受けてこの地の妖を討伐しにきた。妖を殺すのは当然だろう?」
「そんな……」
「さぁ清野、行くぞ」
田村麻呂が馬を操りその場を後にしようとしたその時だった。
大地がぐらりと揺れ、地響きが鳴った。
そして同時に立ってられない程の地震が起こった。
驚いた馬が嘶き、暴れ始める。
空には暗雲が立ち込めたかと思うと、今度は雷鳴が空を轟かす。
何とか馬を宥めつつも驚きの声を上げた田村麻呂の周囲を、更に異変が襲った。
兵士達が次々と呻き声をあげて倒れ、死んでいったのだ。
「何が起こった!?」
田村麻呂が動揺の声を上げると、大嶽丸の体にも異変が起こった。
咲耶の腕の中にいた大嶽丸の体が、サラサラと崩れ、黒い靄になって空気に溶けていく。
「大嶽丸!?」
咲耶は消えていく大嶽丸の体を抱きしめようとしたが、その手は空を掴むだけ。
その時、すっと音もなく人が舞い降りた。
「速日?」
その姿を認めた咲耶がぽつりと呟いて彼を見上げると、速日は田村麻呂や絶命していく兵士達にも目を向けることなく、痛々しい表情を浮かべて咲耶を見つめた。
「俺のせいだな。俺が、この男を助けてやってくれなんて頼まなければこんなことにならなかったんだ」
「速日……大嶽丸はどうなったの?」
「このまま大地を蝕み、そのまま消えるだろう」
「そんな……」
その話を聞いていた清野が、呆然とした面持ちの咲耶を見た後、藁にもすがるような表情で速日に尋ねた。
「大嶽丸は鬼神なんだ。神ならば再び蘇ることはないのか?」
「方法はなくもない。大嶽丸の力を人の中に封じることが出来れば、神力を持った人間として生まれ変わることもできる可能性がある」
「……ならば、私の体に大嶽丸の力を封じてくれ!」
「だが、お前の体が神力に耐えられず、死ぬかもしれないぞ」
「それでもいい。私は友を裏切ってしまった。それで罪を償えるなら、この体を差し出すよ」
速日が空に向かって手を上げると、周りに立ち込めていた黒い霧が彼の手に集まった。
それは徐々に形を成し、黒い玉になっていく。
速日はそれに息を吹きかけると玉は二つに分かれ、一つは清野の胸に、もう一つは清野の持っていた刀へと吸い込まれていった。
「ぐっ……」
その瞬間、清野が顔を歪め膝をついた。
速日の言ったように人の体に鬼神の力を取り込むというのはまさに命懸けなのだろう。
苦悶の表情となった清野は歯をぐっと口縛り、何かに耐えるように体を強張らせた。
その口からは血が流れ、ぽたぽたと地面に落ちた。
ふと清野が咲耶を見るのと、咲耶がその場に崩れ落ちるのは同時だった。
清野は慌てて咲耶の元に駆け寄った。
「咲耶!」
咲耶の体を起こし、清野は顔を覗き込んでその名前を叫ぶが、咲耶の反応は鈍い。
その二人の隣に速日がしゃがみ込むと、咲耶に囁くように言った。
「これで大嶽丸の力はこの男に封じられた。咲耶、お前は人間だ。輪廻の末に大嶽丸に会える日が来るかもしれない。その時まで、お前が何度生まれ変わっても俺がお前を守護すると約束しよう」
「ありがとう……速日」
そう礼を言った咲耶の顔色は青を通り越し、白く変わっていた。
傷口から大量の血が流れ、彼女の命もまた失われていく。
最後に咲耶は清野の胸に手を当てると、彼の中に封じられた大嶽丸に語り掛けた。
「大嶽丸……愛してるわ……いつか、また会えたら……」
愛しさを滲ませた言葉を残すと、咲耶はそのまま息を引き取った。
自分の名を呼ぶ豪の声を思い出し、花那は先程起こったことを思い出した。
翔也によって禍牛にされたこと、そして豪を襲ったこと、彼を守るために自ら命を絶ったことを。
(そうか、私は死んだのね)
ここが死後の世界か。
禍牛になった自分は散りになって消えると思っていただけに少し意外だった。
同時に、自らを異能の力で消し去れたことに対する安堵もあった。
これでもう花那のせいで豪が命を落とすことはない。
ただどこに行けばいいのか分からず、花那はぼんやりと虚空とも思える闇を見つめた。
すると、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。
「大嶽丸、いる?」
その声は花那の良く知る声だった。
花那はその声に引き寄せられるように声の方へ歩き出した。
すると、小鳥の囀りがして、花那の頬を柔らかい風が撫でた。
木々のざわめきが聞こえ、気づけば花那の周囲の景色が森へと変わった。
(ここは?)
暗闇から突然森の中に迷い込んだことに戸惑っていると、先程の女性の声が再び聞えてきた。
「大嶽丸、探したわ!」
目を輝かせてこちらに走って来るのは、花那そっくりの女性だった。
白い着物に緋袴をはいた少女の手には、籠いっぱいに野菜と握り飯が入っている。
その少女の顔を見た花那は、驚きの余り目を見開き、小さく声を上げてしまった。
(あれは、私?)
少女の顔は花那に瓜二つだった。
花那が驚いていると薄水色に近い白銀の髪を靡かせながら、少女が花那の前を通り過ぎて行った。
まるで花那の事など見えていないかのように。
少女の姿を追って振り返ると、もう一人見知った男性が微笑みながら立っていた。
「大嶽丸、ここにいたの?」
「あぁ、咲耶」
大嶽丸と呼ばれた男性は豪そっくりで、そのことにも驚いて二人を凝視してしまった。
ただ、豪の姿はいつもの軍服姿ではなく、直垂に裾絞りの袴姿だった。
その格好から一目でここが大正時代ではないことが分かった。
確か平安時代の男性の服装だったと記憶している。
花那は二人に声を掛けようとしたが、声を発することができなかった。そして二人にも花那が見えていないようだった。
どういうことなのか。
戸惑っている間に、二人が仲睦まじく肩を寄せ合って歩き出した。
「ほら、今日の供物よ。今年も豊作だって村の皆が喜んでたわ。鬼神様によろしくって」
「それは良かった。だが、こんなに貰っては申し訳ないな」
豪――いや、大嶽丸はそう言いながら咲耶の持つ籠を受け取ると、空いている右手で咲耶の手を取り、指を絡めて歩いた。
どうやら二人は恋人同士のようだった。
花那が知る大嶽丸は鬼であり、異形の姿をしていると思っていただけに、豪そっくりの男性が大嶽丸だと知って少しばかり驚いた。
「皆感謝しているのよ。貴方がいるお陰で変な妖が村を襲うこともないし、貴方が雷を呼んでくれるから、稲が育つから」
「この力が役に立つなら良かったよ」
確か伝承によると、大嶽丸は雷を操った。
それゆえ、鬼の力を封じ込めた日本刀も雷を操る力を持つ。
恐らくだが、雷の力は稲の生育を良くし、豊穣をもたらすため村人から厚く信仰され、鬼神として崇められていたのだろう。
山道をゆっくりと歩く二人は、時折足を止めて野の花を見たり、他愛のない話をしていた。
やがて辿り着いたのは森の奥にある社だった。
その社の縁側に座っている少年を見て、花那はまたも声を上げそうになった。
(速日?)
速日は花那の知る姿と全く同じだった。
あどけない少年の姿だが、幾星霜の時を重ねてきたような空気を纏い、淡い水色の狩衣姿は花那の良く知る速日だった。
咲耶は速日の姿を認めると手を振りながら声を掛けた。
「まぁ、速日来ていたの? さっき龍雲が出ていたからそろそろ来るのかと思っていたのだけど」
「咲耶、大嶽丸久しぶりだな。元々近いうちに顔を出そうと思っていたんだけど、ちょっと頼みごとがあって寄ったんだ」
「頼みごと?」
咲耶が首を傾げると、速日が社の中に招くと、そこに一人の青年が横たわっていた。
どこかの貴族だろうか?
萌黄色の狩衣には金の刺繍がしており、布地も上等なものだ。
傍らに弓と弓掛が置いてあるところを見ると、狩りの途中なのかもしれない。
「この方は?」
咲耶がそう尋ねると速日は首を振って答えた。
「分からない。ただ、川岸で気を失っているところを助けたんだ」
話を聞くと速日がここに来る途中、倒れている青年を見つけたらしい。水を司る龍神である速日は、それを見てみるふりができずに助けたのだという。
「というわけで、少しばかり介抱してやってくれないか?」
「分かったわ」
「頼んだ。ちょっと山向うの村に雨を降らせなくちゃならないから俺は行くな。来月には祝言だろう? その時にはまた顔を出す」
祝言という言葉を聞いた大嶽丸と咲耶は、一瞬互いの顔を見合ってから、薄っすらと顔を赤らめてはにかんだ笑顔を速日に見せた。
「わざわざ来てくれるの? ありがとう」
「龍神の血を持つ巫女と鬼神の婚姻だ。この村を守護する者同士の祝言に、龍神として顔を出すのは当然だろ?」
そう言って社の外へと歩き出した速日は、ふと気づいたように足を止めると、咲耶と大嶽丸を振り返った。
「そうだ、お前たちの耳に入れておくけど、実は都からこの辺一体の妖を討伐するための軍が来ている。中には大嶽丸のような村を守護する妖も討伐されている。奴らには龍神だろうと鬼神だろうと関係なく、人外の物全てを亡ぼすつもりだ。気をつけろよ」
その言葉に大嶽丸は厳しい表情を浮かべると、しっかりと頷いた。
「あぁ、分かった」
「じゃあ、次は祝言の時にな」
速日は小さく手を振った後、階段から飛び上がり、姿を消した。
そして空が茜色に染まる頃になって、青年がゆっくりと目を覚ました。
「お目覚めになりました?」
ぼんやりとした面持ちの青年に、咲耶は穏やかな声で声を掛けた。
「ここは? 私はどうしてここに?」
「滝根村です。知り合いが川で気を失っている貴方を見つけてここに運んだんです」
「そうか、狩の途中で道を踏み外して川に落ちてしまったんだ。助けてくれて感謝するよ」
どうやら記憶がはっきりしたらしい青年がそう言って咲耶と大嶽丸に小さく頭を下げた。
「俺は清野と言うんだ。君たちの名を聞いても良いかな?」
「私は咲耶です。こっちは大嶽丸」
咲耶がそう言うと清野が驚いたような表情を浮かべると、一瞬だけ思案顔になった。
「どうしましたか?」
「いや、なんでもないよ」
それは余りにも一瞬の事で、大嶽丸も咲耶も特に不信には思わなかった。
大嶽丸は社の外に目をやり、既に夜の帳が下りているのを見ると清野に提案した。
「今日はもう遅い。何もないがここで一晩泊っていくといい」
「それはありがたい」
「じゃあお夕飯でも食べませんか? おにぎりもありますし、お酒の用意もありますよ」
沙耶はそう言うと、持ってきた籠を見せた。
「ならお言葉に甘えさせてもらうよ」
これが清野との出会いだった。
咲耶と大嶽丸にもてなされた清野は、礼として暫く村で畑仕事を手伝いたいといい、清野は大嶽丸の社に身を寄せることになった。
大嶽丸と清野は寝食を共にし、酒を酌み交わして語り合い、猟に出かけたりと親交を深め、気づけば二人は古くからの友のようになっていた。
その夜も大嶽丸と清野は酒を飲み、沙耶は手料理を振る舞いつつ時折二人の酌をしていた。
盃の酒を呷った清野は、盃を見つめながらしみじみと言った。
「俺は妖なんて人に害をなすものばかりだと思ってたけど、大嶽丸は違うな。君が守護しているからここの村人達は安心して暮らしていけるんだな」
「俺は大したことはしてないさ」
「謙遜するなよ。君が周囲の妖を追い払ってくれなければ、この村人達はこんなに平和で豊かに暮らしてはいけないと思う。その供物がその証拠だと思うよ」
そう言って清野は今日食べきれずに置いておいた干し魚や収穫した野菜、そして酒に目を留めてそう言った。
清野は盃の酒をグイと飲み干すと、大嶽丸に視線を移した。
「実はそろそろ父上が心配しているから帰ることにする」
「そうなのか? それは寂しくなるな」
「君たちの祝言を見れないのは残念だけど。二人の幸せを祈っているよ」
「ありがとう」
「じゃあ早いけど、二人の門出を祝って乾杯しよう。……乾杯」
清野はそう言うと再び酒を一気に呷り、大嶽丸もそれに続いて酒を飲み干した。
清野と過ごす夜は更けていき、清野との別れの日を迎えた。
「大嶽丸、咲耶、色々とありがとう。君達に会えてよかった。この恩は忘れない」
「あぁ、気を付けて帰れよ」
清野はその姿が見えなくなるまで手を振りながら、こうして村を去っていった。
※
清野が去ってから1週間余りが過ぎたある日のこと。
咲耶はいつものように大量の供物を持って大嶽丸の元へと向かっていた。
その時だった。
遠くから村人の一人が血相を駆けて駆けてきた。
「咲耶、大変だ! 都からの軍がこの村に攻めて来た! 早く逃げろ」
「え?」
耳を澄ますと遠くから激しい蹄の音と、村人たちの叫び声が聞こえてきた。
村人の言葉を聞いた時、咲耶は先日速日に言われたことを思い出した。
『実は都からこの辺一体の妖を討伐するための軍が来ている。中には大嶽丸のような村を守護する妖も討伐されている。気をつけろよ』
その言葉を思い出した咲耶は、弾けるように社へと走り出した。
背後で村人が花那を呼び止める声がしたが、それすら聞こえずに一心不乱で大嶽丸の元に向かう。
幸いにして、社は森の奥地にあり、兵士達に見つかるまで時間がある。
咲耶はもつれそうになる足を極限まで動かし、大嶽丸の元に走った。
「大嶽丸!!」
咲耶が社に着くと、大嶽丸が社の奥から姿を見せた。
しかし、咲耶の乱れた髪と息切れした様子からただならないものを察したようだ。
一気に厳しい顔になると、花那に尋ねた。
「咲耶、どうしたんだ? 何があった?」
「逃げて! 都から軍が!」
全てを説明している時間はなかった。
咲耶が大嶽丸に必死に訴えようとした時だった。
森の奥から甲冑の音と足音が聞えてきた。
「話だと大嶽丸のねぐらはこの辺だ! 探せ!」
野太い声が聞こえたかと思うと、間髪を容れずに木々の間から兵が現われた。
「ここだ! ここにいたぞ!」
「かかれ!」
二人を取り囲む兵達の目には、ありありとした殺意が浮かんでいる。
咲耶や大嶽丸が声を発する間もなかった。
突然兵が雪崩の如くに襲い掛かって来たのだ。
大嶽丸が反射的に咲耶の肩を抱いて自らの胸に寄せると、そこに放たれた矢が社の壁に突き刺さった。
それを合図とばかりに、幾人もの兵士達が一斉に矢を放った。
「雷よ!」
矢を避けきれないと瞬時に悟った大嶽丸がそう叫びながら手を振り下ろすと轟音が鳴り響き、その刹那、稲妻が兵士達の頭を直撃した。
「今だ、行くぞ」
大嶽丸は咲耶の手を引くと、倒れた兵士達の間を縫って走り出した。
兵士たちが怒声を上げながら大嶽丸と沙耶を追いかけ、ヒュンヒュンといった風切り音と共に、雨のように矢が降ってくる。
「燃えろ!」
大嶽丸がそう叫ぶと、その声に呼応したように空から火が現われ、その矢を燃やした。
この山を越えれば隠れ家の洞窟がある。
咲耶と大嶽丸はそこを目指して必死に逃げた。
だが、そんな二人の行く手を阻んだのは一人の青年だった。
「此処から先にはいかせられない」
「どうして……清野、お前がここに……」
そこに立っていたのは清野だった。
突然現れた知人を前に、足を止めたその瞬間だった。
鈍い音がしたと同時に、咲耶が小さく呻いてその場に倒れた。
「っ!」
「咲耶!?」
大嶽丸が慌てて咲耶を見ると、彼女の肩には深々と矢が突き刺さっていた。
刺さった矢の周囲から血が溢れ、咲耶のまっ白な着物を赤く染めていく。
「咲耶! しっかりしろ!」
大嶽丸は慌てて咲耶を抱き上げて肩を揺すると、咲耶は小さく呻きながら薄っすらと目を開けた。
「大嶽丸……逃げて……」
そんなか細い咲耶の言葉を、凛として低い男の声がかき消した。
「動くな! 動けばその女を射る」
声の方を振り向くと、そこには白い馬に跨り、武者姿をした男の姿があった。
その風格から都から襲って来た軍の大将、すなわち坂上田村麻呂だとすぐに分かった。
男の言葉を合図とばかりに、弓兵の矢が咲耶に狙いを定めた。
「清野からそこの女がお前の許嫁であることは聞いている。そしてお前の力もな。少しでもおかしな真似をすれば矢が女を射抜くだろう」
その言葉で大嶽丸は全てを理解した。
全ては清野の計画だったのだ。
大嶽丸の身辺を探り、居場所を特定し、軍に伝えるためという計画――
「……お前はこいつの間者だったんだな」
大嶽丸は悔し気に顔を歪めながら、清野を睨んだ。
気づけば大嶽丸の周囲を兵士達が取り囲み、槍を向けている。
その奥には弓隊の姿も見え、もう逃げられないのは明白だった。
「狙いは俺だろう? 沙耶だけは助けてくれ」
「……分かった。征夷大将軍の名に懸けて、その約定を守るとしよう」
「大嶽丸……駄目……」
大嶽丸はゆっくりと咲耶を横たえると、額に柔らかく口付けを落とした。
そして全ての愛を伝えるような眼差しを向け、咲耶の頬をそっと撫でながら耳元で囁いた。
「咲耶、幸せになってくれ」
咲耶は大嶽丸を引き留めようと手を伸ばすが、それが届くことはなかった。
大嶽丸は田村麻呂に向き直ると、数歩前に出て膝を着いた。
そして二人の兵士が進み出て、一人は大嶽丸の腕を後ろに束ね、もう一人が刀を振り上げた。
ざしゅりという肉の切れる音が響き、同時に大嶽丸の体が力なく倒れる。
「嫌! 大嶽丸!」
咲耶は痛みを堪えつつ、重い体を引き摺りながら大嶽丸へと一歩一歩と近づく。
そして彼の躯にしがみついて慟哭した。
「大嶽丸目を開けて! お願い!」
だが大嶽丸は咲耶の叫びに答えることはなかった。
それを見た清野が慌てた声で田村麻呂に詰め寄った。
「父上、話が違います! 大嶽丸は捕縛するだけだと仰ったじゃないですか!」
「お前は甘いな。私は帝の命を受けてこの地の妖を討伐しにきた。妖を殺すのは当然だろう?」
「そんな……」
「さぁ清野、行くぞ」
田村麻呂が馬を操りその場を後にしようとしたその時だった。
大地がぐらりと揺れ、地響きが鳴った。
そして同時に立ってられない程の地震が起こった。
驚いた馬が嘶き、暴れ始める。
空には暗雲が立ち込めたかと思うと、今度は雷鳴が空を轟かす。
何とか馬を宥めつつも驚きの声を上げた田村麻呂の周囲を、更に異変が襲った。
兵士達が次々と呻き声をあげて倒れ、死んでいったのだ。
「何が起こった!?」
田村麻呂が動揺の声を上げると、大嶽丸の体にも異変が起こった。
咲耶の腕の中にいた大嶽丸の体が、サラサラと崩れ、黒い靄になって空気に溶けていく。
「大嶽丸!?」
咲耶は消えていく大嶽丸の体を抱きしめようとしたが、その手は空を掴むだけ。
その時、すっと音もなく人が舞い降りた。
「速日?」
その姿を認めた咲耶がぽつりと呟いて彼を見上げると、速日は田村麻呂や絶命していく兵士達にも目を向けることなく、痛々しい表情を浮かべて咲耶を見つめた。
「俺のせいだな。俺が、この男を助けてやってくれなんて頼まなければこんなことにならなかったんだ」
「速日……大嶽丸はどうなったの?」
「このまま大地を蝕み、そのまま消えるだろう」
「そんな……」
その話を聞いていた清野が、呆然とした面持ちの咲耶を見た後、藁にもすがるような表情で速日に尋ねた。
「大嶽丸は鬼神なんだ。神ならば再び蘇ることはないのか?」
「方法はなくもない。大嶽丸の力を人の中に封じることが出来れば、神力を持った人間として生まれ変わることもできる可能性がある」
「……ならば、私の体に大嶽丸の力を封じてくれ!」
「だが、お前の体が神力に耐えられず、死ぬかもしれないぞ」
「それでもいい。私は友を裏切ってしまった。それで罪を償えるなら、この体を差し出すよ」
速日が空に向かって手を上げると、周りに立ち込めていた黒い霧が彼の手に集まった。
それは徐々に形を成し、黒い玉になっていく。
速日はそれに息を吹きかけると玉は二つに分かれ、一つは清野の胸に、もう一つは清野の持っていた刀へと吸い込まれていった。
「ぐっ……」
その瞬間、清野が顔を歪め膝をついた。
速日の言ったように人の体に鬼神の力を取り込むというのはまさに命懸けなのだろう。
苦悶の表情となった清野は歯をぐっと口縛り、何かに耐えるように体を強張らせた。
その口からは血が流れ、ぽたぽたと地面に落ちた。
ふと清野が咲耶を見るのと、咲耶がその場に崩れ落ちるのは同時だった。
清野は慌てて咲耶の元に駆け寄った。
「咲耶!」
咲耶の体を起こし、清野は顔を覗き込んでその名前を叫ぶが、咲耶の反応は鈍い。
その二人の隣に速日がしゃがみ込むと、咲耶に囁くように言った。
「これで大嶽丸の力はこの男に封じられた。咲耶、お前は人間だ。輪廻の末に大嶽丸に会える日が来るかもしれない。その時まで、お前が何度生まれ変わっても俺がお前を守護すると約束しよう」
「ありがとう……速日」
そう礼を言った咲耶の顔色は青を通り越し、白く変わっていた。
傷口から大量の血が流れ、彼女の命もまた失われていく。
最後に咲耶は清野の胸に手を当てると、彼の中に封じられた大嶽丸に語り掛けた。
「大嶽丸……愛してるわ……いつか、また会えたら……」
愛しさを滲ませた言葉を残すと、咲耶はそのまま息を引き取った。



