全てがキミだった


「おまえさ、まだあれ持ってるか?」

ベンチの前に並ぶ鉄棒へひらりと飛び乗り、くるりと背筋を伸ばして一回転した公平が、ぶら下がったまま私に尋ねた。

風を切る音とともに、彼の着ているシャツの裾がふわりと揺れる。
ベンチからその軽やかな動きを見つめていた私は、言葉を発する代わりに、ただ静かに頷いた。

「そっか。よかった」

安堵したような声とともに、公平はまたくるりと鮮やかに鉄棒の上で体を躍らせる。

「やっぱさ、おまえに渡しといて正解だったかも」

……どうして?

声に出して問う代わりに、私はまっすぐ公平を見つめた。
喉の奥に引っかかった問いかけは、視線となって公平に届く。

「あれは俺のだけどさ、おまえのでもあるだろ?」

「よいしょ」と小さく声を漏らし、しなやかな動作で鉄棒から地面へと着地した公平は、着地の衝撃で少し乱れた洋服の裾を素早く手で直した。

そのまま、砂利を踏みしめる軽快な足音を立てて、私の座るベンチの前まで走ってくる。
そして、着ているチェックのシャツの胸ポケットにスッと指を差し込むと、そこからあるものを取り出した。

私はそれを見て、思わず息をのむ。

「──それ」

ぽつりと溢れた私の声に、公平は少年のような笑みを浮かべて見せた。

「懐かしくね? ここに来る途中でコンビニで見つけてさ。思わず買っちゃったよ」

そう言うと、彼は「池内、早く来いよ」と手招きしながら、公園の隅にある古びた水道へと走っていった。
照りつける太陽の下、水浴びでもするかのように無邪気に駆けていく公平の背中。

その輝く瞳は、もう23歳の大人になった男の人の目ではない。

あの日、青空の下でボールをがむしゃらに追いかけていた、17歳の――まだまだ未熟な頃の目のままだった。