家を出る前に、私は押し入れの奥に静かに眠る、あの小さな箱をぐっと見つめた。
もう何年も開けられることのなかった、ずっと封印されたままの“あれ”。
この箱の中に眠っているものを、このまま私が持っていていいものなのだろうか。
あの日、公平はどんな顔をしていただろう。
『これは、おまえに持っていてほしい』
そう言って、まっすぐな目で私に手渡してくれたあのぬくもりを、私は今でも鮮明に覚えている。
だけど、やっぱり。
やっぱり、これは私が持っていていいものではないんだ。
返そう。
今日のどこかで、公平にきちんと返そう。
それがきっと、一番いい。
手元にあるから、いつまでも期待してしまう。
目に入るから、あの夏の日の残像から抜け出せずにいるんだ。
これを彼の手に返してしまえば、きっと私は楽になれるかもしれない。
あの日から止まったままの思い出に縛られることもなく、公平の影を追いかけ続ける苦しさからも、解放されるのかもしれない。
私は意を決して箱に手を伸ばし、冷たい木肌を固く握りしめた。


