全てがキミだった


「送ってくよ」

ファミレスの重いガラスドアを出たところで、夜の冷気を含んだ風がさらりとふたりの間を吹き抜けた。
くるりと公平がこちらを振り返り、当然のようにそう口にする。

唐突に投げかけられたその言葉に、私は思わず目を見開いた。

「なに驚いてんだよ。ちゃんと覚えてるぜ、おまえんち」

そう言って、公平はいたずらっぽく片方の眉を上げると、ふふんと鼻を鳴らしてみせた。

覚えているとか、覚えていないとか、そんな事で驚いているんじゃない。
ファミレスでの時間が終われば、そのまま「じゃあな」と手を振って、それぞれの日常生活へ戻っていくものだとばかり思っていたから。
店を出て、夜風にあたりながらも、まだ公平と共に同じ時間を過ごせるなんて、微塵も思っていなかった。

静まり返った夜の駐車場。
街灯の橙色の光が、彼の少し伸びた髪と背中を柔らかく照らしている。

今時、たったこれほどの事で心臓が跳ね、息が詰まるほど喜んでいる私は、世間一般からしたら少し遅れているのだろうか。

23にもなって、恋する女子高生みたいに喜ぶなんて、ちょっとピュア過ぎるのだろうか。

だけど、どうしても緩んでしまいそうになる頬を抑えることができなくて、私はバレないようにうつむきながら、公平の少し後ろをゆっくりと歩き出した。