「そう言えば、どうして急にこっちに戻ってきたの?」
あからさまに話題を変える。
この重くるしい沈黙と、自分の鼓動のうるささから逃げるように、少しでも空気を変えようと思って投げかけた言葉だった。
だけど、それが間違っていた。
一瞬で強張った周りの雰囲気で、それがすぐにわかった。
「あぁ……ちょっとな」
グラスを弄ぶ公平の手が止まり、今度は彼の目が泳ぎ始めた。
その気まずそうな表情の裏側には、きっと『ミサキ』がいるんだろうなと、女の勘のような鋭い感覚で悟ってしまった。
胸の奥が、冷たい刃物で刺されたみたいにすうっと冷えていく。
だけど、公平はそれ以上、一切美咲の事は口にしなかった。
二人は、まだ付き合っているのだろうか――。
喉の奥まで出かかったその問いを、私は飲み込むことしか出来なかった。
怖くて、とても聞く事なんて出来なかった。
そもそも、公平はあの頃、本当にミサキと付き合う事が出来たのだろうか。
高校を卒業し、香織と離れ離れになってからは、私の耳に公平の情報を届けてくれる人はいなくなった。
17歳のあの日から止まったままの私の記憶。
高校を卒業してから今まで、公平がどこで誰とどんな風に生きてきたのか、私は何も知らない――。


