全てがキミだった


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「なんだ、しっかり覚えてんじゃん」


目の前でミートスパゲティのフォークを置いた公平が、悪戯っぽく口元を緩める。

忘れるわけがない。
あの夕暮れの廊下で渡された、冷たくて温かいハンカチの感触。
あれこそが、私が公平をただの憧れではなく、ひとりの男の子として好きになった決定的な瞬間だったのだから。

6年経った今でも、鮮明に思い出せるくらいに。

「池内、彼氏は?」

最後のスパゲティを綺麗に口にした公平が、皿を脇に寄せながらふいに尋ねてきた。
唐突に投げかけられた問いに胸が跳ね、私は言葉を返せないまま、静かに首を横に振る。

「……そっか」

公平は短くそう呟くと、特に深く追及することもなく、どこか静かな目線を私に向けた。

漂う少しの気まずさに耐えかねて、私の目が泳ぐ。
逃げるように手探りで卓上のグラスを掴み、氷の浮かぶ冷たい水をゴクゴクと口に含ませた。
喉を通る冷たさで、かっと熱くなった頬を誤魔化そうと必死だった。

……ねえ、公平。

まだ、あの頃と変わらずあなたを想い続けているって、気づいた?
6年間、誰も代わりに好きになれず、ずっとあなただけを追いかけてきたんだよ。
もしも公平がその事実を知ったら、さすがにここまで想われ続けているなんて思わなくて、さすがに引くよね。

グラスにへばりつく水滴を指先でなぞりながら、私は怖くて公平の顔を見上げることができずにいた。
食欲なんてなかったけど、目の前のドリアを熱いのもお構いなしに豪快に口に入れていく。
そうしてないと、この空気感に耐えきれなかったから。