どれくらいの時間が過ぎただろう。
西日に照らされた静かな廊下で、私はただ一人、ポツンと取り残されていた。
ショックと情けなさで、金縛りにでも遭ったかのように足が動かなかった。
何やってんだろ……。
ほんっと、ばっかみたい。
もう、帰ろう……。
期待なんてしなければよかったのに。
胸の奥に芽生えたばかりの熱を押し殺すように、深く息を吐き捨てる。
もう、余計な事は考えない。
全部、脳震盪のせいで頭がおかしくなっていただけ。
そう自分に言い聞かせて、一歩を踏み出そうとした。
――その時。
橙色に染まる廊下の床、私の足元の視界に、影がすっと差し込んできた。
視線の先に現れたのは、先ほど素っ気なく去って行ったはずの、彼の上履きだった。
「……え、」
はっとして弾かれたように顔を上げると、そこには、少しバツの悪そうな顔で一枚のハンカチをこちらに差し出す彼の姿があった。
夕日を浴びた彼のシルエットが、あまりにも近くにあって息が止まる。
きっと、驚いて目を見開いている私の顔は、相当酷い表情をしていたに違いない。
「はい、これ」
差し出されたハンカチからは、ひんやりとした冷気と、わずかに水滴の匂いが漂っていた。
わざわざ手洗い場で濡らして、絞ってきてくれたのだと気づくまでに、少し時間がかかった。
「おでこ、少し腫れてるよ」
公平は照れくさそうに視線を少し泳がせながら、そっと言葉を付け足した。
「これで少し冷やしとけよ。何もしないよりは、ちょっとは違うかもだし」
少し低くてぶっきらぼうなその声が、静かな廊下に優しく染み渡っていく。
さっきまでの冷たさが嘘のように、差し出された濡れたハンカチと、彼の優しい気遣いが、凍りつきそうだった私の心を一瞬で熱く溶かしていった。


