全てがキミだった


「大丈夫?」

今度は私の耳元で、ささやき声に近い静かなトーンで話しかけてきた。

「私、どうしたの……?」

かすれた声で尋ねると、香織は申し訳なさそうに眉を八の字にして、小さく吐息を漏らした。

「あたしが蹴ったボールが、亜美の頭に直接当たっちゃったの。保健室の先生が言うには、軽い脳震盪だって……。ほんとごめんね」
「あー……そっか。ううん、ごめん。私こそ、ホント何をやってもダメだね……。あ、あのさ、ここまで運んでくれたんでしょ? 私、重かったよね。 ほんとごめんね……」

申し訳なさでいっぱいになりながら、少しでも体勢を変えようと身をよじると、頭の奥でズキンと鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめてしまう。
頭が割れてしまいそうなほどの痛みに耐えながら香織を見つめると、彼女はぶんぶんと首を横に振った。

「ううん、違うよ。あたしが運んだんじゃないよ」
「え……?」

香織じゃないのなら、体を張ってここまで運んでくれたのは誰だろう。

――あ、体育の田中先生か。

がっしりした体格で、普段から厳しいけれど面倒見のいい田中先生の姿が頭に浮かんだ。
女子生徒を保健室まで運ぶなんて、きっと先生くらいしか考えられない。

「そっか……。ちゃんとお礼言いに行かなきゃね」
「うん、ちゃんとお礼言いなよ?」
「うん。もう少し落ち着いたら行くよ。体育教官室の、田中先生でしょ?」

私は放課後になって頭の痛みが少し引いたら、真っ先に体育教官室に向かってきちんとお礼を言おうとしていた。
それなのに、香織は私の言葉を聞いた瞬間、きょとんとした顔で目を丸くした。
そして、信じられないものを見るような目で私を見つめながら、ぽつりとただ一言。

「違うよ」

と言ったんだ。