全てがキミだった


「亜美、パスっ!!」

甲高い香織の声が、初夏の突き抜けるような青空に響き渡った。

その感情が「憧れ」から「恋」へと、逃げ場のないほど決定的に変わってしまったのは、2年生になって初めての体育の授業の後のことだった。

運動神経が文字通りゼロの私にとって、サッカーの授業ほど苦痛な時間はなかった。
ドタバタとグランドを駆け回りながら、必死でボールを追うフリをするので精一杯。
そんな私に向かって容赦なく放たれた香織からのパスを、私がうまく受け止められるはずもなかった。

香織の足元を勢いよく離れたサッカーボールは、私の足元ではなく、あろうことか顔面の高さへ向かって一直線に飛んでくる。

「え――」

かわす暇さえなかった。
ガツンと重い衝撃が額を打ち抜き、視界がぐにゃりと歪む。

次の瞬間、私の世界は唐突に、真っ暗闇へと包み込まれた。

倒れ込んだあとの出来事は、正直なところあまり覚えていない。
耳の奥で遠く聞こえた女子たちの悲鳴も、土の冷たさも、すべてが靄の向こう側に消えてしまっていた。

けれど――

たったひとつだけ。
たったひとつだけ、意識が混濁する私の記憶の奥に、深く、しっかりと刻み込まれている出来事がある。

止まっていた私の時間を無理やり動かし、この胸の熱を、二度と引き返せない場所へと変えてしまった、あの出来事が。