「池内、なんで俺がラインしても返してくれなかったんだよ」
おしぼりを丁寧にひろげて手を拭きながら、公平が少しだけ口を尖らせて言った。
まるで昔、約束をすっぽかされた時のように、ほんの少し拗ねたような仕草。
「あ、うん……ごめん」
私は手元のグラスをじっと見つめながら、逃げるように俯いて答えた。
声が上ずり、返答はどこまでもぎこちない。
――これが、6年という時間の長さなのかな……。
あんなに毎日一緒にいて、彼の呼吸のタイミングすら分かっていたはずなのに。
一度も連絡を取らないまま重ねてしまった歳月のせいで、今のふたりの間には、まるで初対面の人と向き合っているかのような、重く硬い緊張感が漂っていた。
どうして……こんなに遠く感じちゃうんだろう。
あんなに逢いたくて、声が聞きたくてたまらなかったのに。
目の前にいる公平との間に横たわる目に見えない壁を感じて、胸の奥がツンと痛む。
あの頃の「当たり前」だった関係に戻れないことが、想像以上にショックだった。
公平は、変わっていないようで、やっぱり変わっていた。
畳んだおしぼりをテーブルに置く手つきも、どこか落ち着いた大人の仕草になっていて。
まとう雰囲気も、少年からひとりの男性へと確実に変化していた。
昔と違う彼の空気に呑まれそうになりながら、私は冷えたグラスの結露を、指先でそっとなぞることしかできなかった。


