全てがキミだった


「あー、そういえば、明日、綾が帰ってくるって連絡があったわよ」

トントントン、とリズム良くまな板を叩く包丁の音にのせて、お母さんが少し弾んだ声のトーンで言った。

「うそ、そんなの聞いてないよ」
「まぁ、あの子は連絡がマメだからねぇ。……お母さんにだけは、だけど」

視線はまな板の上の鮮やかな夏野菜に向けたまま、お母さんの口元がどこか誇らしげに緩む。

「仕事、休み取れたんだね」
「初めてのまとまった連休みたいよ。ああいうサービス業も大変よねぇ。世間が休みの時こそ稼ぎ時なんだから。まぁ、お母さんのコスメカウンターも似たようなものだけどさ」
「でもさ、せっかくの貴重な連休なんだから、向こうで羽伸ばしてゆっくり過ごせばいいのに。わざわざこんな実家まで帰ってこなくてもさ」

私がソファーから呟くように言うと、お母さんはピタリと包丁を動かす手を止め、眩しいものでも見るかのように目を細めてこちらを振り返った。