全てがキミだった


「……池内?」

それは、あまりにも不意に降ってきた声だった。

夕方のシフトに入り、コンビニのレジで「いらっしゃいませ」と機械的に声を弾ませた、まさにその瞬間。
打ち終わったレシートとおつりを差し出し、目の前に立つ男性の手のひらへ渡そうとした時だった。

目の前のお客さんが、私の苗字を呼んだんだ。

「……っ」

驚いた私は、おつりを手渡す指先がかすかに触れ合った瞬間、弾かれたように自分の手を引っ込めた。

その声には、痛いほど聞き覚えがあった。

一瞬で、全身の血が逆流するような感覚。
ドクン、と心臓が破裂しそうなほど限界まで高鳴り始める。

毎日何人ものお客さんを相手にする接客業だというのに、今の私には、どうしても目の前に立つ人の顔を見上げることができない。
視線を上げたら、自分がどうなってしまうのかが、わかったから。

絶対に、今、顔は歪んで引きつってる……。

「……やっぱり、池内だ!」

俯いたまま動けないでいる私を見て、目の前の男性の声のトーンがパッと明るく上がった。

――どうして。
どうして、ここにいるの?

連絡をしてみようかって、思ったばかりだったのに。
なんの心の準備もできていない。

私のブルーの制服の胸元で、瞳が細かく痙攣しながら、行く場を失って泳ぎまくっていた。
息がうまく吸えない。

「久しぶりだなっ!」

弾んだ声が、頭上から降ってくる。

私は引きつったぎこちない笑顔を必死で浮かべ、声も出せないまま、ただ小さく頷いてみせた。

時の流れを嘲笑うかのように、突然なんの前触れもなく、私の目の前に現れた公平に向かって。