全てがキミだった


一番好きになった人が、自分にとって一番身近で、一番大切な人を好きだったなんて――。
その絶望と切なさがどれほどのものか、今の私には痛いほどよく分かった。
辛く、なかったのかな……。

「辛かったわよ。そりゃあね。……今のあんたと、まったく一緒よ」
「……なんだ。気づいてたんだ」
「見くびらないでくれる? あんたの母親を何年やってると思ってるのよ」

不意を突かれて、私は小さく肩をすぼめた。
隠せているつもりだったのに、母親の目には最初からお見通しだったらしい。

私は気まずさを誤魔化すように、冷えたわらび餅に爪楊枝をぶすりと刺し、湯呑みに口を寄せてお茶をすすった。

ズビビッ、と少し下品な音を立ててしまうと、お母さんが眉をひそめてギロリとわたしを睨みつけてくる。

「……時間が解決するのよ。そういうことって」

そう言って、お母さんも自分の湯呑みを持ち上げ、お茶をすすった。

――ズビビビッ、と私以上の音を立てて。

「熱いわね、これ」

飲んだあとに自分で「ふー、ふー」と息を吹きかけ、湯呑みの熱気を逃がしているお母さん。
そのどこかコミカルな仕草に、胸の奥の重苦しいものがほんの少しだけ軽くなる気がした。

時間が、解決する。

お母さんはそう簡単に言うけれど、私にとっての『その時間』とやらは、一体いつ訪れてくれるのだろう。

あの日から、もう6年も経つというのに。
どれだけ季節が巡っても、私の中の公平は、未だに思い出の特等席に居座り続けている。

目を閉じれば今でも、あの日と同じように下あごのあたりをピクピクと歪ませて可笑しそうに微笑みながら、『……お前は本当、ドジだな』と、優しく声をかけてくるんだ。