「最近、体重が70キロを超えたんだよなぁ」なんてぼやきながら、休みの日にソファーでゴロゴロと寝転がっている姿。
そして、冬になるたび「寒くないのかな」と本気で心配になるほどの、薄くなった寂しい頭頂部。
私の瞼の裏に浮かんできたお母さんの理想とは程遠い父親像は、ニパッと無邪気に笑うと、そのままスーッと消えていった。
「……だよね」
「そうよ」
お母さんは当然でしょ、とばかりに鼻で笑う。
「じゃあさ、お母さんが『一番好きだった人』って、いつの人なの?」
「う〜ん、高校の頃かな」
お母さんはトクトクと、空になった湯呑みに新しい温かいお茶を静かに注ぎ足した。
湯気がお母さんの目元をかすかに曇らせる。
「1年くらい付き合ったんだけどね、ダメだったのよ」
「……どうして?」
「お母さんの方から告白して、奇跡的に付き合えたんだけどね。……彼が本当に好きだった人は、お母さんじゃなくて、お母さんの親友だったの」
「え……」
「そりゃもう、お母さんなんてただの『二番目』。親友に近づくための都合のいい存在だったわけよ」
そんな少女漫画みたいな残酷な話、まるで『今日の夕飯のおかずがちょっと焦げちゃったのよね』とでも言うようなあっけらかんとした調子で、お母さんはさらりと言ってのけた。


