全てがキミだった


「わらび餅、あるけど食べる?」

スマホに落ちていた視線を露骨にそらす私を見て、お母さんは探るように片方の眉をぐっと上げた。
私は言葉を返さず、ただ小さく頷く。

「じゃあ、温かいお茶も淹れるわね」

パタパタとスリッパの音を立ててキッチンへ向かうお母さんの背中を見送りながら、私はソファーの上で身を縮めた。

設定温度が低すぎるのか、クーラーの利きすぎたリビングは薄着の肌に少し肌寒かった。
床から伝わってくるひんやりとした冷気から逃げるように、足を気持ち浮かせて、冷たくなった両足を両手でそっと摩る。

やがて運ばれてきた湯気の立つお茶を啜り、透明なきな粉たっぷりのわらび餅を口に運ぶ。
ぷるんとした甘さが口いっぱいに広がるけれど、胸の奥のソワソワとした心地悪さは消えてくれない。

「ねぇ、あのさ……」

小さな爪楊枝をくわえたまま、私は伏し目がちに、どこか探るような声で尋ねてみた。

「お母さんがさ、人生で一番好きになった人って……やっぱり、お父さんなの?」

ずっと聞くことのなかった問いかけ。
視界の隅に映るお母さんは、お茶のカップを置くと、あからさまに嫌そうなしかめっ面を作ってさらりとこう言った。

「まさか」

大げさに肩まですくめて見せるその動作には、微塵の迷いもなかった。

「そんなわけないじゃない」

苦笑しながらあっけらかんと言うお母さん。

その言葉を聞きながら、私の頭の中には、今この瞬間も大きなハンドルを握って高速道路を走っているであろう、我が家の大黒柱――無口で無骨なトラック運転手のお父さんの姿が、鮮明に浮かんでいた。