全てがキミだった


どんな人なのか詳しく聞き出そうにも、私の口はまるで陸に上がった鯉のようにパクパクと意味なく開閉を繰り返すばかりで、動揺のあまり言葉にすることが出来なかった。

「……あ、言っとくけど、お母さんには絶対に言わないでよ? 知られたらあれこれ根掘り葉掘り聞かれて、後でいろいろとうるさいことになるから」

釘を刺すように言われ、私はロボットみたいに細かく、何度も何度も頷いて見せる。

そして綾は、遠くの街明かりを見つめながら、どこか照れくさそうに言葉を続けた。

「……もう少ししたら、家に連れてくる予定だから。それまでは二人だけの秘密ね」

その追い打ちの一言に、私はさらに開いた口が塞がらなくなってしまった。

家に連れてくる? そこまで話が進んでるの!?
いつの間に、そんな大切な人ができていたというのだろう。
身近にいたはずの妹の、知らない一面を突如突きつけられて、脳内のキャパが完全にオーバーしていた。

けれど、風に吹かれながら少し大人びた横顔を見せる綾の、まっすぐで真剣な瞳を見ていたら――。
胸の奥の固く結ばれていた何かが、ふっと解けていくような気がした。
大切な人と向き合い、自分の未来をしっかりと歩もうとしている綾の姿が、眩しくて、どこか羨ましかった。

……私も、いい加減、前に進まなきゃ。

ふと、ポケットの中にあるスマホの重みを感じる。

止まったままだった6年の歳月。
ずっと過去の眩しさの中に閉じ込められていた自分の恋。

公平に連絡を入れてみようかな、と。
そんな思いが、不思議とすんなり胸に芽生えていた。

公平とやり取りをして、今の公平の声を聞くこと。
それはきっと、過去を綺麗に思い出に変えて、私が新しい一歩を踏み出すために、どうしても必要なことなのかもしれない。