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「でもまぁ……よくそこまで誰かを好きになれたよね。そこだけは本当に感心するよ」
屋上の錆びついたフェンスに背中を預け、夕暮れから夜へと移ろう空を見上げながら、綾がポツリと言った。
「あたしには、そこまで誰かを想うなんて絶対無理だし」と、自嘲するように少しだけ唇を綻ばせる。
「強いよね、亜美は。ちょっと感動したもん。こんなにも誰かを真っ直ぐに好きになり続けるなんて、そう簡単にできることじゃないよ」
「……強くなんかないよ」
私はフェンスに両手をかけ、6年前のあの日と同じように、静まり返ったグラウンドを見下ろした。
風が吹き抜けるたび、あの日の秋の匂いと、公平のあたたかな温もりが肌に蘇ってくる気がした。
「全っ然強くない。その証拠に……吹っ切るのに6年もかかってるんだし。もしかしたら、これからもっと時間がかかっちゃうかもしれないしさ」
格好悪いけれど、それが偽りのない私の本音だった。
どんなに惨めに傷ついても、どれだけ時間が経っても、私の中の「公平」は少しも色褪せてくれないのだから。
「……なんか、悪いこと言ったな。ごめん」
綾が少しだけ声のトーンを落とし、申し訳なさそうに眉をひそめた。
「強制的に諦めろとか言っちゃってさ。……なんだかあたし、だんだん『それでもいいのかな』って気がしてきたよ」
「それでもいい、って?」
「諦める必要なんてないんじゃない、ってこと。もちろん、一生引きずってろってわけじゃないよ? でもさ、亜美が心から『この人と一緒にいたい』って思える新しい誰かと出会うその日までなら……無理に忘れようとしないで、ずっと好きでいたっていいんじゃないかな」
綾の言葉が、夜風に乗って私の胸の深いところまで、ゆっくりと染み込んでいった。


