全てがキミだった


「……ごめん」

静寂を割って落ちてきたその絞り出すような声と同時に、私は強い力で公平の胸の中に抱き寄せられていた。

「……っ」

息が止まる。
第2ボタンまで無造作に開けられた制服のシャツ越しに、公平のあたたかな体温がダイレクトに肌へ伝わってくる。

トクトク、トクトクと、規則正しく響く穏やかな心音。
真夏の残り香を含んだ公平の汗の匂い。
いつも少し離れた場所から見つめていた大きな腕が私を包み込み、厚い胸板が私の体を力強く受け止めていた。

ずっとずっと夢にまで見たものが、今、現実として目の前にある。
鼻の奥がツンと激しく痛み、視界が涙で途端に歪んでいく。
零れ落ちそうになる雫を必死で堪えようとすればするほど、唇が、頬の筋肉が細かく痙攣した。

こんなにも涙が溢れて止まらないのは、あまりにも唐突な出来事に驚いたから?
それとも、ずっとずっと恋焦がれてきた公平のぬくもりに包まれて、どこかで安心した自分がいるから?

――ううん、違う。

『これが最後だ』と。
これが公平から与えられる、最初で最後の慰めなのだと、私の身体の全細胞が悟ってしまったからだ。
耳元で聞こえる彼の呼吸音も、背中に回された腕の力強さも、すべてが残酷な別れの証としてわたしを深く傷つけていく。
抱きしめられながら、私はただ静かに、彼の胸の中で瞳を閉じた。