全てがキミだった


「……飛べるよ」

視線をグラウンドに落としたまま、私はぽつりと呟いた。

風の音に掻き消されないように。
けれど、自分の声が震えてしまわないように、精いっぱいの強がりを込めて。

「……公平は、飛んで行けるよ」

いつもなら「バカ言え」って笑い飛ばすはずの公平だったけれど、その時は笑わなかった。
ただ、胸に刺さるような優しい声で『……ありがとう』とだけ言った。

「もし……。もしもさ、その翼でうまく飛べなかったとしたら……」
「ハッ、確かに。飛べないかもな。なんたって、俺だし?運動神経でも良ければ真っ直ぐ飛べそうだけどさ」
「飛べるよ」

きっぱりと言い切ると、公平は少し驚いたように首を傾げた。

「どうしてそう言い切れんだよ」
「公平には、想う人がいるから。……大切な人がいたらさ、人間だって飛べるんだよ。飛べないはずのペンギンだって。……だけど、もしも。もしも、本当に飛べなかった時にはさ、これがあるから」

私は制服のスカートのポケットから、四つ折りにたたんで押し込んであった一枚のプリントを取り出した。

ざらついた紙の感触。
指先に残る記憶だけをたよりに、折り目をひとつひとつ、丁寧になぞるように折っていく。

放課後の風が吹き抜ける屋上で、私の想いをそっと閉じ込めるみたいに、紙の形を変えていった。