全てがキミだった


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「……このまま、ミサキのところに飛んで行けたらいいのになぁ」

フェンス越しに夕暮れの空を見つめながら、公平はたまに、こんな突拍子もないことを言い出すことがあった。

今も、バカみたいに突然両手を大きく左右に広げて、まるで自分の背中に透明な翼でも生えたかのような仕草をしてみせる。

「こんなに大きな翼がさ、俺の背中に生えててさ……飛びたいときにパッと飛ぶんだよ。それができたら、めっちゃ最高だと思わない?」

――ミサキのところまで。

語尾の方はほとんど公平の独り言のようで、消え入りそうな呟きだった。
私の耳の鼓膜は、その風に消えていきそうな囁き声を、うまく拾い上げることができなかった。

いや……拾えなかったんじゃない。
もしかしたら、私の全身の細胞がそれを完全に拒否していたのかもしれない。

『ミサキ』というたった三文字の音は、私にとって心を破壊する有害物質そのものだったから。

だけど、どうしてだろう。

ミサキの話をする時の公平は、胸が締め付けられるほど切なげで……それなのに、どこか誇らしげでもあった。

大好きな人が、自分以外の誰かをそんな愛おしそうな顔で想っている。

苦しかった。
胸の奥がぎゅっと潰されそうで、息の吸い方すら分からなくなる。

――ああ、もうダメだ。

その時私は、自分がずっと大切に育ててきたこの想いの行き場を、完全に失ってしまったのだと痛感していた。