「そんでさ、『あいつといた時には、先生から罰ばかり言い渡されてて、ホントろくなことなかったなぁ』って」
「それ、酷くない? 私が全部悪いみたいに言わないでよ」
「だって、実際その通りだろ? お前といるとろくな目に遭わない」
そう言ってから、公平はふっと目を細めて、言葉を区切った。
「……でもさ」
月明かりを映す水面をぼんやりと見つめたまま、彼は静かに、小さな呟きをこぼす。
「……でも、あん時はめっちゃ楽しかったなぁ。あの時に戻りてぇなぁって、絶対思うんだ」
『おまえといると、いつも楽しかったな』って。
公平は、ひと間を置いたあと、胸の奥から絞り出すみたいにポツリと言った。
夜の静寂の中に溶けていくその言葉は、甘い毒みたいに私の全身を駆け巡った。
……公平。
あれから6年が経った今、私は誰もいない静かなプールサイドで、硬いコンクリートの縁をじっと見つめているんだよ。
バカみたいでしょ?
本当……呆れるよね。
実際、今の公平は……ふと高校時代を振り返った時に、私という存在を思い出してくれてるのかな。
素人の拙い手つきで髪を切ってあげたことや、体育の時間のくだらない悪ふざけ。
先生に怒られて、夏休みの誰もいない学校で二人きり、だるそうにデッキブラシを引いていたこと。
「あん時は楽しかったな」って、今でもどこかで、私の顔を浮かべてくれているのだろうか。
――私はこんなにも、あなたのことを思い出しているというのに。
あの時の風の匂いも、夕闇に溶けていくあなたの横顔も、交わした言葉のニュアンスひとつひとつさえ、一言一句間違わないように、宝物みたいに大切に反芻し続けているというのに。
届くはずのない問いかけが、夏の終わりの風に浚われて、静かなプールの中に消えていった。


