「素人が同じ髪型に切れるわけないじゃん。一回目は奇跡的にうまくいっただけだし」
わざと呆れたような声を出す私に、公平は前髪をつまんだまま、悪びれもせずに笑った。
「大丈夫だよ。おまえなら」
この人は、一体何を根拠にそんな言葉を口にしているのだろう。
根拠のない自信と、私へのあまりにも無防備な信頼。
それだけで、胸の奥がキュンと甘く痺れてしまう。
「いいじゃん。思い出にできるし」
「……思い出?」
「そう。大人になってさ、いつかこの青春時代ってやつを思い出すんだよ。俺がおっさんになって、おまえがおばさんになった時にさ」
「なにそれ。私は絶対、おばさんにはならないよ」
「おまえはピーターパンかよ」
可笑しそうに吹き出した公平と、一度バッチリと視線がぶつかり合った。
公平は言ったあとに呆れた様子で軽く肩をすくめてみせる。
その仕草ひとつひとつが、月光の中でドラマのワンシーンみたいに美しく切り取られていく。
「『あの時、俺たちこんなバカなことやってたなぁ』って思い出す時にさ。……必ずおまえが、俺の記憶の中に出てくるんだよ」
「……必ず?」
自分の声が、自分でも驚くほど震えて、小さく漏れた。
「うん。必ず。……金に困ってた俺は、あの時あいつに髪を切ってもらったなぁって。それも、2回も」
「2回もって……それってまた切ること前提じゃん!」
「当たり前だろ」
公平はそう言って、悪戯っぽいにやりと笑った。
未来の話。
大人になった時の話。
そこに当然のように「私」が存在しているという事実が、どれほど心を締め付け、奇跡みたいにドキドキしたか。
たとえそれが、公平にとってはただの友情の延長線の言葉だったとしても。
17歳の私にとっては、一生分の宝石をもらったのと同じだった。
月明かりがプールに落ちて揺れる中で、私はただ、彼の横顔を刻み付けるように見つめることしかできなかった。


