私の放った水滴は、綺麗な弧を描いて見事に公平の顔面へと命中した。
「ぶっ……! お前、マジでやりやがったな!」
さっきまでの威勢はどこへやら、水分を含んだ公平のふわふわとした柔らかい髪が、しんなりと額に重たく垂れ下がっている。
その隙間から覗く目は驚きに丸く見開かれていて、滴る水滴が鼻先からポタリと落ちた。
公平の後ろ、網フェンスの向こうに咲いていた向日葵も盛大にとばっちりを受けて、黄金色の花びらを濡らしながら、まるで笑う私達を呆れ顔で見つめているようだった。
夕暮れ前の誰もいないプールに、ふたりだけのふざけ合う声と弾けた水飛沫の音がどこまでも高く響き渡る。
やがて、狂ったように鳴いていた蝉の声がひとつ、またひとつと途切れ、空の色が濃密な茜色から紫紺へと滑らかにグラデーションを描き始めていた。
部活動を終えた生徒たちの遠い笑い声や、自転車のベルの音が校門の方へ去っていく。
私は、世界が夜の静寂に呑み込まれようとしていることに、とうに気づいていた。
けれど、「もうこんな時間だよ、帰ろう」なんて言葉は、絶対に口にしたくなかった。
こうやって、公平と同じ空気を吸って、くだらないことで笑い合って、ただ隣に並んでいるだけの時間を、1分でも、1秒でも長く引き延ばしていたかったから。
胸の奥から湧き上がる途方もない欲深さに、自分自身でさえ戸惑うほどだった。
そして、公平もまた、私と全く同じことを考えてくれていたのではないかと、思わずにはいられなかった。
足元が見えなくなるほど周りが暗くなっていくのを、公平だって絶対に気づいていたはずなのに。
彼は濡れた髪を手ぐしでざっくりと掻き上げ、ただプールサイドの縁に深く腰かけたまま、一度だって「帰ろう」と言わなかったから。
薄暗がりの中、互いの影がプールの底で重なり合う。
微かに聞こえる彼の呼吸音と、茜色から群青へと落ちていく空の色。
世界にたったふたりきり取り残されたようなその恐ろしいほどの美しさと愛おしさが、17歳の私のすべてだった。


