「何すんの? ヤバいって。これって完全に不法侵入でしょ?」
休日の誰もいない静まり返った校門の前で、私は思わず声をひそめて綾の袖を引っ張った。
「そんなの関係ないって。で? 亜美はどの場所に一番、公平との思い出があるの?」
唐突な問いかけに、私は「はぁ?」と眉をひそめて綾の顔を見返した。
「亜美がこれ以上公平の事を引きずらないように、今ここでけりをつけるの。今日一日だけは時間をあげるから、思う存分公平を思い出しなよ。そして、今日で綺麗さっぱり諦める。わかった? これは強制だからね」
公平を、きっぱり諦める――。
本当に、そんなことが今さらできるのだろうか。
いま、この場所で。
しかも、あの眩しかった時間を実際になぞるようにして過ごしたこの校舎で――。
そんなことをしたら、余計に思い出が鮮やかに蘇って、今度こそ本当に公平の残り香から抜け出せなくなってしまう気がする。
けれど、戸惑う気持ちとは裏腹に、私の身体はあの頃の記憶をはっきりと覚えていた。
校庭を抜ける風の匂い、オレンジ色に染まる長い廊下、手洗い場の冷たい水の感覚。
吸い寄せられるように、公平を求めるみたいに、私の足は自然と『あの場所』へと向かっていた。
アスファルトを踏みしめる靴音が、どこか遠い日の放課後と重なって、静かな校庭に切なく響き渡っていた。


