―――――――――――
―――――――――…
「はい、これ。ご褒美」
水道で手を洗う私に向かって、公平がポケットから取り出した自分のスマホを差し出してきた。
画面には、見慣れたLINEの『マイQRコード』が表示されている。
私は急いでスカートのポケットからハンカチを取り出し、指先についた水滴を拭き取ると、自分のスマホを取り出してカメラを起動させた。
「なに、これ」
「だから、ご褒美だって」
「ご褒美? なんの?」
「おまえ、この前のテストで成績上がってたんだろ?」
「誰から聞いたの?」
「斎藤」
香織め、チクったな。
画面越しにスキャンすると、小さな電子音とともに彼のアカウントが表示される。
画面に浮かんだ彼の名前を見つめていると、胸の奥がギュッと締め付けられ、一気に頬の温度が上がっていった。
「俺のLINE。なんでかまだおまえと交換してなかったからさ、今回のご褒美に追加させてやるよ」
前髪の奥にある二重瞼の目を細め、どこか上から目線の公平が、私を見下ろしながら満足そうに口角を上げた。
これ以上心臓がうるさく鳴らないように、公平の目を見ずに画面の『追加』ボタンをタップする。
「……なにそれ、偉そうに」
「あ、いらねぇならブロックしてもいいけど?」
公平が意悪く笑いながら、ひょいと私のスマホを覗き込んできた。
「や、やだ! ブロックなんてしません!」
私は慌ててスマホを胸元に抱え込み、宝物みたいにスカートのポケットへと滑り込ませた。
水道の上にある窓からふわりと風が吹き込んできて、公平のサラサラの前髪を揺らした。
私が切ってあげてから、また少し伸びてきた髪。
通知音とともにポケットの中で小さく震えたスマホが、やけに愛おしく感じられた。


