忘れよう、捨ててしまおうと思ったことは、もちろん何度もあった。
だけど、もし私まであいつのことを忘れてしまったら、本当にすべてが「なかったこと」になって完全に終わってしまう。
あいつと過ごしたあの夕暮れの道も、波の音も、教室で見た大きな背中も、全部。
そんなことに、私は到底耐えられそうになかった。
「半年に一回くらいしか帰ってこないからさ、帰る頃にはその恋患いみたいな病気も治ってんだろうなと思ってたのに。……まだそんな風に引きずったままなんてね。いい加減、次の男見つけなよ」
ベッドに服を並べる手を止めずに、綾が淡々と言い放つ。
私は膝の上でぎゅっと拳を握りしめたまま、綾の言葉に何一つ言い返すことができなかった。
だって、私の中にいる公平は、あの日オレンジ色の夕日に照らされていたあの頃と何一つ変わらない姿で、今も鮮明に居続けているのだから。
……これは、病気なのだろうか。
もう二度と届かないと分かっている人を、こうして何年もずっと好きで居続けることは、そんなに悪いこと?
もう、何もわからない――……。
沈黙が流れる部屋の中、ガムテープでガチガチに固められた箱だけが、嘲笑うかのように静かに佇んでいた。


