「仕事、どう?」
夕飯を済ませ、綾の大きな荷物を私の部屋へと運び込んでひと段落したところで、私は意を決して話を持ちかけた。
綾が夢を追って家を出てからは、それまで綾が使っていた日当たりのいい部屋を梓が一人で使うようになっている。
だから、帰省中の綾が寝起きするのは、消去法で私の部屋ということになるのだ。
「超楽しいよ。最近はやっと、本格的に接客に入れるようになったしね」
「接客って、どんなことするの?」
「うーん、メインは先輩のお手伝いかな。ブローに入ったり、シャンプーしたり、お客様にお茶出してお話ししたり」
「ふーん……」
自分の技術で誰かを綺麗にしている綾の姿が目に浮かび、胸の奥が少しだけチリッと痛む。
「で、亜美は今なにしてるの?」
「……バイト」
「なんの?」
「コンビニ」
「ふーん。……でもさ、そろそろ本格的に正社員の仕事探しなよ」
綾はボストンバッグのジッパーをシャーッと引き開け、畳んだ洋服やコスメポーチを引っ張り出しながら、ごく自然なトーンで言った。説教くささすらない、あまりにも当然のようなその助言。
私はベッドの脇に座り込み、バッグから次々と出てくる色鮮やかな服や都会の匂いがする小道具たちに目を向けながら、その問いには答えずに黙り込んだ。
「……ねえ、あの箱」
ボストンバッグの奥に手を突っ込んだまま、綾がふと動きを止め、部屋の隅を顎でしゃくった。
その視線の先には、粘着テープで無骨にグルグル巻きにされた、あの茶色い箱がある。
「あんなにぐるぐるガムテープ巻いて封印してるくせに、わざわざ目に入る位置に置いておくなんてさ。亜美も本当に馬鹿だよね。全然忘れようとしてないじゃん」
呆れたような、けれどどこか見透かしたような冷ややかな目を私に向けたあと、綾はハァと小さく息を吐き、また黙々と荷物をベッドの上に並べ始めた。


