「えぇっ、高校出たらもう働いちゃうの? めっちゃ大変だよ?」
「そんなの、いつ就職したって大変なのは同じでしょ? それに、私頭悪いから進学なんて絶対無理だし。実際、受験勉強なんてこれっぽっちもしてないんだから」
私の「就職」というあっさりした言葉を聞いて、目を丸くして驚いていた香織は、「就職かぁー……」と呟きながら、そのまま机の上に脱力したように突っ伏した。
「はぁ……なんかさぁ、私たちまだ高2だっていうのに、もう将来のこと考えなきゃいけないなんて、嫌だよね。これで3年になったら、もう毎日のように言ってくるんだろうね。親も先生も、口を開けば進路、進路、進路ってさー」
それを想像した香織が顔を歪めながら、首を細かく横に振っていた。
「香織はどうするの? やっぱり進学?」
「あたし? あたしは、一応大学行くよ」
「え、大学行くの!?」
「失礼だなー。これでも一応、陰でコツコツ勉強してんだからね?」
「ふーん……全然そんな風に見えなかった」
「ふふ、実はね」
机に突っ伏したまま、香織が少しだけ顔を上げて悪戯っぽく笑った。
「陸がさ、行きたい大学のスポーツ推薦を今から狙ってて、すごく一生懸命頑張ってるんだよね。まだ1年生なのにだよ?だからさ……あたしが先にその大学に入っておいて、またマネージャーとして陸が入ってくるのを待ってようかなー、なんて思ってたりして」
……正直、ちょっと驚いた。
香織も私と同じで、進路のことなんてぼんやりとしか考えていないのだろうと思い込んでいたから。
私が公平への断ち切れない想いと将来への不安から逃げるように「就職」を選ぼうとしている一方で、香織は陸との未来をしっかり見据えて、前を向いて歩いていた。
好きな人のために努力して、一緒に未来を描こうとしている親友の姿。
それがどこまでも眩しくて、そして自分と比べて少しだけ惨めで、心臓が嫌な音を立ててズキズキと痛んだ。


