全てがキミだった


左側には重なり合う青々とした山並み、右側にはどこまでも続く群青の海。

その狭間を一本の二車線道路がまっすぐに貫く、見慣れた田舎道。

視界を遮るものは何ひとつなく、ずーっと遠くまで見通せるその一本道は、まるでどこにも行き着かない私たちの未来そのもののようだった。

ざざん、と押しては引き、引き込んではまた打ち寄せる波の音。
その残響が後ろに迫る山の岩肌に反射して、頭上から降り注ぐような不思議と立体的な音響を奏でている。

潮の香りと濡れたアスファルトの匂いが、夕暮れの生ぬるい風に乗って鼻をくすぐった。

……ちょうど、この頃だった。

公平に、ふたつ上の彼女がいるという噂が校内に流れ始めたのは。

透き通るように色白で、肩まで届く綺麗な黒髪をした、守ってあげたくなるような華奢で大人っぽい女の子。

名前は『ミサキ』。

本当かどうかも確かめられないまま、けれどあまりにも具体的なその情報が、風の噂のように冷たく私の耳へと舞い込んできたのだ。

隣を歩く公平の横顔を、盗み見る。

夕陽に照らされた彼の横顔はどこか遠くを見つめていて、その瞳の中に映っているのが私ではない誰かなのだと思い知らされるたび、胸の奥が冷たい刃物でえぐられるように痛んだ。

波の音だけが、虚しく二人の間に響き渡っていた。