全てがキミだった


「梓もさ、綾姉みたいにちゃんと夢に向かって進める人になりたいな。絶対に亜美みたいに暇でなにもない人生歩むのだけは嫌だもん」

なんとでも言えばいい。

私は綾じゃないし、あんたがどう思おうと勝手だ。
胸の奥にジリジリとした小さな熱が広がるのを覚えながら、私は白飯を口の中に放り込んだ。

「ねえお母さん、梓ね、将来パティシエになりたいの!」

目をキラキラと輝かせ、テーブル越しに身を乗り出す梓。
その眩しすぎる真っ直ぐな視線を受け止めながら、お母さんは何事もないように涼しい顔で頷いた。

「なりたいものになりなさい。綾だって、そうやって自分で見つけた夢をちゃんと叶えたんだから」

夢――。

思わず、箸を持つ手に力が入る。
そんなもの、追ったところで何になるっていうんだろう。

「夢なんてさ……追うだけ自分が苦労するだけだよ。休みたいときに休めないし、世間が休みのときにせっせと働かなきゃいけないんだから。絶対大変だって」

誰とも目を合わせないまま、うつむいてボソリと呟く。
お母さんや梓に向けた言葉というよりは、自分自身に言い聞かせるような、毒を含んだ掠れ声。

「……絶対そんな人生つまんない」

梓が聞こえるか聞こえないかくらいの声で、冷ややかにそう呟いた。

その言葉が、刺さった針みたいにチクリと胸の深くに残った。
けれど私は何も言い返せず、ただ冷めかけた野菜炒めの皿を静かに見つめ続けることしかできなかった。