「なに?どうしたの?」
「綾が、綾に……」
お母さんの手が小刻みに震えている。
開いた手紙を持つ指先がかすかに揺れ、目をこれでもかってくらいに丸めて、手紙と壁の空間を何度も往復させていた。
私は眉をひそめて、リビングのテーブル越しに身を乗り出すと、お母さんの手元にある綾からの手紙を覗き込んで見た。
そこに並んでいたのは、妹の丁寧で整ったいつもの文字。
“今度の連休、また帰ってくるから。
お母さん、ちゃんと休み入れててね。
会わせたい人がいるから”
とうとう、綾も動き始めた。
しっかりものの綾のことだ。
わざわざ手紙でこんな予告をしてくるなんて、きっと生半可な気持ちじゃない相手なんだと思う。
お母さんは相当驚いたのだろう。
開いた口が塞がらないといった様子で、手紙を握りしめたまま、まだ放心している。
それほどショックだったのか。自分の娘が親の手を離れていく寂しさでもこみ上げてきたのだろうか。
「お母さん、今時誰だった恋愛の一つや二つするでしょ?そんなに驚かなくったって」
急な展開に固まってしまったお母さんを気遣い、私は軽く笑いながらフォローしたつもりだった。
だけど、静まり返ったリビングの中で、お母さんのこのリアクションは、単なるショックや寂しさからのものではなかったみたいだ。


