「公平、ありがとう」
「なんだよ、急に」
「私、公平と出会わなかったら、きっとつまんない人生を送ってた」
公平は、私の横顔を見て驚いている。
少し照れたように、鼻の頭をポリポリとかいていた。
「それは、俺も同じだよ。きっと、青春時代は輝いていなかったと思う。池内がいたから、俺は笑えてたんだ。ありがとな」
公平の口から出てきた言葉。
『ごめん』ではなく、『ありがとう』。
一気に、心が温かくなった。
私達は、強く、固く握手を交わした。
これも、儀式の一つだ。
これから先も、公平は親友に変わりないという大切な――。
繋いだ手から伝わってくる温もりは、かつて恋焦がれた胸の痛みではなく、確かに自分たちの青春を分け合った証そのものだった。
「じゃあな、池内」
「うん。またね、公平」
差し込む夕日を背に、公平が歩き出す。
その背中を見送りながら、私はゆっくりと息を吐き出した。
鞄の中はもう空っぽで、心もどこかすっきりと軽くなっていた。
17歳の夏に止まっていた私の時間が、今、爽やかな風とともにしっかりと動き始めていた。


