全てがキミだった


お父さんはお父さんで、「もっと家族水入らずで過ごす時間を増やしたいなぁ」なんて、休日になるたびに子供みたいに口を尖らせている。

だからこそ、今回せっかく綾が帰ってくるというのに仕事の運行シフトと重なって家にいられないことを、心底がっかりして悲しんでいたらしい。
お母さんからその話を聞かされたとき、私は「相変わらずだなぁ」と苦笑いするしかなかったけれど。

「ねえ、亜美はさ。毎日なにして過ごしてるの?」

ご飯を口に運んでいた手がピタリと止まる。
……これまた、一番突かれたくない痛いところを平然と突いてくる。

梓は末っ子のくせに、私のことを一度も「お姉ちゃん」と呼んだことがない。
呼び捨てだ。

まあ、定職にも就かず、毎日昼近くまで寝ては家の中でゴロゴロしているような情けない姿しか見せていないのだから、姉としての威厳なんて皆無なのだろう。
年の離れた妹からすれば、ただの「部屋に生息している年上の居候」くらいにしか見えていないのかもしれない。

以前なんて、宿題に追われてパニックになった梓から、「そんなに一日中暇なら、代わりに私の学校行って授業受けてきてよ!」と本気で怒鳴られたことすらある。

「……何って、別に普通にバイト行ったり、部屋にいたりだけど」

私は努めて平然を装いながら、お皿の隅に残った人参を箸で突いた。

痛いところを突かれるたびに、胸の奥がキュッと狭くなる。
23歳。
同年代のクラスメートたちは社会人としてまともに働き、自分の足で人生を進めているというのに、私だけがあの夏の日の止まった時間に取り残されたまま。

逃げているのは、自分が一番よく分かっている。

でも、そうやって器用に割り切って前を向くことなんて、今の私にはどうしてもできないのだ。