全てがキミだった


正直言って、心が折れた。
鼓動が乱れて、視界がぶれる。

やっぱり、公平はミサキと付き合っていた。
今まで定かではなかった事が、今、明らかになった。

――こうなるまで、結構長かったな。
会ったこともないミサキの存在を受け入れるまで、6年もかかった。
私は、公平から視線をそらさなかった。

だって、あのボールはもう公平の手の中にある。
あのボールを手渡す事は、儀式なのだから――。
公平は、ミサキと結婚する。
胸の奥が焼きちぎられるような痛みが奔り、喉の奥がカラカラに渇いていく。

けれど私は、瞳からこぼれ落ちそうになる涙を寸前で踏みとどまらせた。
泣いてしまえば、この6年間の決意も、今ここで差し出したボールの意味も、すべてが台無しになってしまう気がしたから。

「……そっか」

自分でも驚くほど、静かで温かい声が出た。

「おめでとう、公平」

夕闇がゆっくりとふたりを包み込んでいく。
手の中のボールを大事そうに見つめる公平の姿は、もう『わたしの特別』ではなく、誰かの人生を背負うひとりの大人の男の顔をしていた。

恋は叶わなかった。
ミサキには勝てなかった。

けれど、私が公平を好きだった17歳の夏も、抱え続けた6年間の痛みも、何ひとつ無駄ではなかったのだと、静かに目を閉じて心に刻み込んだ。