全てがキミだった


「……おまえ」

私は、深く息を吐いた。
もう一度目を閉じ、乱れそうな気持ちをひとつひとつ整理していく。
ボールを掴む指先が、どうしても微かに震えてしまう。

「返すよ。ほら、これは公平のだし、ずっと私が持ってるのはやっぱりおかしいからさ……それに、それには……」

私は、ここで言葉を区切った。
ここで、ミサキの名前を出していいものかと、胸の奥で一瞬ためらってしまったからだ。
それには、ミサキの印がついている。
公平の特別だった女の子の痕跡を、これ以上自分の部屋に置いておきたくない。
もうこれ以上、他人の思い出を背負ったまま公平を思い続けるのは嫌だ。
本当はそう言いたかった。

けれど言葉を呑み込み、唇を噛み締めて差し出した私の手から、公平はゆっくりとボールを受け取った。
指先がほんの少しだけ触れ合って、一瞬だけ熱が走る。
公平は手の中のボールを見つめると、愛おしそうに、そしてどこか切なさの混じった手つきで、黒ずんだ革の表面をそっと撫でていた。

「懐かしいな」

ぽつりと漏らされたその声に、長年時が止まっていたボールが、ようやく本来の持ち主の元へ戻ったのだと実感する。
風がふたりを吹き抜けていく中、公平の横顔を私は静かに見つめていた。