全てがキミだった


「公平……」
「ん?」
「あのさ……」
「なに?なんかあった?」

心配そうに私を覗き込む公平。
私は、ギュッと、紙袋の中でボールを掴んだ。
革のごつごつした感触と、長年染みついた土のざらつきが指先に伝わる。

次第に手の平が汗ばんできて、ボールがじわりと濡れていくのが分かった。

この乱れる鼓動、公平に伝わりませんように……。
私は、唇を噛み締めて固く目を閉じた。

高校の体育祭の日、夕闇のなかで彼からこのボールを手渡された瞬間のこと。
部屋の隅でガムテープに縛られ、ずっと静まり返っていたあの箱のこと。
17歳から23歳になるまでの、長すぎた空白と未練。

すべての記憶がグルグルと頭の中を駆け巡る。

ゆっくり鞄からボールを出したつもりだったけど、静かな公園の中でガサゴソと妙に大きく響いた。

息を吸い込み、固く閉じていた目を見開く。
そして、まっすぐに公平の顔を見据えて、泥と汗で湿ったボールを彼の方へと差し出した。

「これ、返す」

差し出した私の腕が、かすかに震えていた。
風がふっと吹き抜け、ふたりの間に一瞬の静寂が落ちる。
公平の視線が、私の手元にある真っ黒なボールへとゆっくり落ちていった。