全てがキミだった


ガムテープを外し、ゆっくりと蓋を開ける。
目を閉じて、乱れる鼓動を抑えた。

瞼の裏に、17歳の私がいる。
あのボールを持って、笑っていた。
その笑顔は、悲しそうでもなく、切なそうでもない。
輝くものを見て、感動しているような笑みだった。

――あぁ、そうか。
私は、幸せだったんだ。
公平と共に、あらゆることを共有し合えて――。

ミサキへ、かなりの嫉妬心を抱いていたのは確かだ。
だけどそれ以前に、私はただ、公平の事が真っ直ぐに大好きだった。
高校の泥だらけのグランド、雨上がりの匂い、繋いだ手の温もり、そしてポケットから出てきた傷だらけのボール。

『さようなら』と心で叫んで、勝手に自分を悲劇のヒロインに仕立て上げて逃げていたのは私の方だったのかもしれない。

好きだから苦しくて、好きだから惨めで。
けれど、あの時の感情は間違いなく、何物にも代えがたい「幸せ」そのものだった。

ゆっくりと目を開ける。
薄暗い箱の底には、あの日と変わらない重みを持った野球ボールが静かに眠っていた。
23歳になった私の指先が、6年ぶりにその固い皮の感触を確かめるように、そっと触れた。